目の前にはだかる高セキュリティのマンション
その最上階に向かうエレベーターに乗って最上階に行った。
「はぁ、本当に最悪だ…。
私がこんな目に遭うなんて。」
部屋に入ってすぐに独り言をボヤキながら、リビングのソファーにドカッと座り込んだ。
「明日からあの倉庫にいかなきゃいけないなんて…。
はぁ、嫌だなぁ。」
最近、心臓の具合もますます悪くなっているし、呼吸がしづらくなってきている。
いつ、どこで倒れるかわからない。バレるのは時間の問題だ。
あの倉庫で倒れるのが一番厄介だ。
どうしよう…。いろいろと考えているうちに、深い眠りについてしまった。
プルプルッ
「ん?んん~っ!誰よ…。」
電話の音で目が覚めた。
スマホを手に取り、画面を見る。“久本孝介”と表示されていた。
「はい…。」
「おい!玲菜ぁーー‼お前、どうして病院に来ないんだ!」
応答して早々に、耳元で叫んだのは私の担当医の先生だ。
「はぁ?治らない病気、死を待つだけなのに病院に行ってどうするのよ。」
「治らなくても、少しくらい長く生きられるかもしれねぇじゃねーか!」
「苦しんでまで生きようとは思わない。」
「はぁ。言うと思ったが…。とりあえず、一度診察に来い!」
「はいはい。いつか行きますよ。じゃ。」
プツンッ.
病院ねぇ。行っても意味ねーじゃん。
そういや、今何時だっけ?
昨日はリビングで寝たから時計の位置が少し遠い。
12時30分をゆうに過ぎていた。やべぇ。
今日、学校じゃん!倉庫に行かないと。今日は仕方がない。
昨日が火曜日だったから、今日は水曜日だ。
2日間も無断欠席してしまった…。
病院にでも行こうかなぁ?
学校側にすべてを白状しよう。
とりあえず、病院まで行こうと自宅付近のバス停から直接大学病院まで行けるバスに乗った。
30歳という若さで、大学病院の医院長をしている私の担当医久本孝介は、医学界では相当名の知れた腕の持ち主で、難しい手術を望む患者が殺到するとのことだ。
大学病院前で降りて、受付に直行した。
「すいません。医院長に取り合ってほしいんですけど…。」
「医院長にですか?失礼ですが、どのような御用件でしょうか?」
「医院長に診察してもらっているんですけど…。」
「あっ!松井玲菜様ですね!気づけなくて、大変申し訳ございませんでした。少々お待ちください。」
「はい。」
今、医院長の受け持っている患者がいないからなのか、結構早い段階で分かったみたいだ。
少し待っていると、受付の人が戻ってきた。
「松井様。申し訳ございませんが、医院長は只今忙しいようで…。
いいかがなさいますか?他の先生を呼ばれますか?」
「いえ。看護師長さん呼んでいただけますか?」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
「はい。」
少し待っていると受付の人が戻ってきた。
「看護師長は只今こちらへ向かっているそうです。」
「そうですか。ありがとうございます。」
結構時間がたってから、私の名前を呼びながら看護師長が向かってきた。
「玲菜ちゃん!待たせてごめんね!」
「いえ。待ってないです。」
この、大学病院の看護師長をやっているベテランの“佐藤紀子”(さとう のりこ)さん。
「何かあったの?」
「いえ。何かというほどじゃ…。孝介先生に呼ばれてきたんですけど、忙しいみたいで。」
「あぁ。今、ちょうど手術が終わったところだったんで繋がらなかったんですよね。」
そういって、紀子さんは苦笑いをした。
「そういうことだったんですね!今から会うことって可能ですか?」
「玲菜ちゃんなら、いくら忙しくても会いそうだよね。ふふ」
案内をしてもらいながら、話を続けた。
「かもしれないですね。でも、無理はしてほしくないので…。」
「そうねぇ。若いから、いろいろなプレッシャーがあるだろうしね。」
「メンタルあるようでない人ですもんね。」
「そうなのよね!フフフ
着いたよ。」
コンコンッ
「医院長。玲菜ちゃんがいらっしゃっています。」
「えっ!?玲菜がっ?!」
ドタドタバタッ!バコッ!
「イッテェ‼」
紀子さんの話を聞いてすぐ、ドア付近で何かにぶつかる音が聞こえ、孝介先生の雄叫びが上がってちょっとしてドアが開いた。
バタンッ
「玲菜‼お、おま、来るときは連絡の一本でもしろよな!」
「はぁーい。中入っていい?」
「あっ、あぁ。」
遠慮なくなかにはいる。
「私はこれで失礼しますね。」
「紀子さんありがとうございました!」
「いーえ!」
紀子さんがいなくなった後、孝介先生がドアを閉めた。
私は、ソファーにドカッ!と座った。
「最近、体の調子はどうだ?」
「んー。最近は…割とやばいかも。」
「やばい?具体的に言え。」
すっごい真剣な顔で質問してくる。
「えっと、胸が締め付けられる感じとか、息苦しさっていうのかな?呼吸がしづらくなってきた。」
「そうかぁ。こっち向いて。」
言われた通り孝介先生の方を向くと、聴診器を持って“服をちょっとまくれ”と言われたので服を少し上げたら冷たい聴診器が心臓の部分にピタッと当たる。
「ちょっと、鼓動が遅い気がするね?入院するべきだよ。」
「入院?するわけないでしょ?」
「言うと思ったが、さすがにやばいぞ?」
「入院は嫌よ。あと何ヶ月生きれるの?」
「玲菜が中2の時点で3年と言ったが、もう1年もない。
倒れることを見越して考えると、長くて2か月、短くて1か月だ。」
もう、そんなに短い時間しかないの?急がないと。
「自分でどうにかできなくなったら、入院する。」
「いや、入院する気がないのなら1週間に一回は俺のところに来い。」
「そんなに?いやよ。」
本当に時間が無くなっちゃう。
「これ以上は無理だ。来なかった場合は即入院。わかったな?」
「わかった。運動ってしていい?」
「本当はだめだが、ほどほどにな。」
「うん。今日は帰るね。」
「あぁ。気をつけろよ。」
本当に時間がない。急がないと。
その日は、家に帰ってすぐに寝た。
次の日になって学校に行く支度をした。今は朝の7時30分早く行って、学校側に本当のことを言うつもりだ。
8時少し前になり、学校へ向かった。
学校に着いてすぐに職員室に向かった。
コンコンッ
「朝早くに失礼します。先生方にお話があって早めに伺いました。」
先生たちは“なんだ、なんだ”と動揺している。
「桜木さんどうかしたの?」
私の担任が優等生の私に何かあったのではないかと焦りながら聞く。
「まず、昨日無断欠席をして申し訳ありませんでした。
そして、私は“桜木怜奈”ではなく“松井玲菜”と言う名前です。偽名で入学して申し訳ございませんでした。」
そう言い終わると、深く深く頭を下げた。
明らかに先生たちは戸惑っている。
「ぎ、偽名?どうしてそんなことを?」
担任としての責任なのか、疑問をぶつけてくる。
「実は、私には余命宣告があります。皆さん知っての通り、親もいません。捨てられました。そして、中学の時荒れていて名前からいろいろなことがバレるのが嫌で、偽名を使って入学しました。
理事長には、理由を説明して入学を許可してもらいました。」
皆、唖然と言った顔だ。
「本当にすみませんでした。でも、これからも偽名で生活します。
あと、2ヶ月の命です。お願いします!」
もっと、深く深く頭を下げた。
「頭を上げて。どんな病気なの?」
「心臓の病気です。本当は、あと1年近く寿命があったんですが昨日、入院すべきだと言われました。そのくらい悪化しています。」
「入院する気はないの?」
「はい。限界が来るまでは入院は断るつもりです。」
「治らないの?」
担任以外の先生も質問に加わる。
「技術も、費用もすべて足りなくて、ほぼ不可能と言われました。」
「わかりました。もし、少しでも異常があれば誰でもいいから先生に言ってね。」
担任が優しく言った。
「ありがとうございます。このことは、誰にも言わないでもらってもいいですか?」
「ええ。わかったわ。」
「失礼しました。」
まず、1つ一件落着。
既に、生徒が登校していた。
教室に入り、普通に何事もなかったかのように授業を受けた。
放課後になるとやっぱり桐本美希が来た。こっちもどうにかしないとなぁ。
「怜奈ちゃーん!」
「なに?」
「倉庫行こう!」
「あぁ、うん。みんなに話があるの。」
「話?」
「うん。そう、大事な話。行こう。」
2人で、どうでもいいような雑談をしながら倉庫に着いた。
周りから“こんにちわ”とかいろいろ聞こえるが、まだ慣れない。
奥に進み、階段をコツンッコツンッと一歩ずつのぼっていく。
「連れてきたよー」
桐本美希がみんなに聞こえる声で言う。
「あぁー。昨日どうして来なかったんだよ。」
総長の絹岬葵衣が聞いてきた。
「昨日?起きたら今日の朝だったから、どう考えても来れないでしょ?」
「怜奈ちゃんそんなに寝てたの?!」
「うん。まぁ、二度寝だけどね…。」
嘘ではない。私にはよくあることだ。
「そっか!それなら仕方ないよね!」
「ねぇ、私を警戒し、嫌っているのはどうして?
性格?得体が知れないから?」
桐本美希の言葉を無視してその場の全員に聞いた。
「嫌っているわけではない。だが、警戒はしている。
その理由は得体も知れないし、その上俺たちのことをすべて知っている。そうなれば警戒しないわけがないだろう?」
副総長様が口を開き、丁寧に説明をしてくれた。
「そう。なら、教えてあげる。答えたいことだけ答える。」
「へぇー。君が自分のことを話すの?」
「勘に触る言い方ね?」
総長様の挑発に挑発で返した。
「なんでも聞いていいんだよね?じゃあ、本名は?」
「それは無理。名前から言いたくないことまでバレるじゃない。」
総長様の質問に答えた。
「じゃあ、俺も聞きたいことある。
どうして暴走族が嫌いなんだ。」
副総長様が一番聞いてほしくないことを聞いてきた。
「それも、答えられ…「そんなの全部答えられないじゃないかっ!」」
チャラい男が私の言葉を遮った。
「じゃあ、話せばいいの?!話せばすっきりする?!あんな残酷な…。屈辱的なことを‼」
その場は唖然だ…。
「あっ…。と、取り乱してごめんなさい。」
「そんなに話したくない事なの?」
桐本美希が遠慮もなく聞いてきた。
「なら、聞く…?私のもっとも消し去りたい過去を…。」
「う、うん!聞きたい!怜奈ちゃんのことをもっと知りたい!」
陽気な声で答えた。この先の絶望的な過去を聞いて、嫌いになれ!私のことを。
「11歳くらいの時。私は、襲われたんだ。暴走族に…。叫んでも叫んでも、誰も来ない。周りの男は増えるばかり!“やめて!”何回言ってもやめてくれなかった‼ヤることやったらすぐに捨てる!あんな…あんな最低な奴ら‼死ねばいいんだ!死ねば!はぁ、はぁ、はぁ。死ねば…!はぁ、はぁ…。」
泣き叫びながら、当時のことを思い出して泣いた。いつぶりかわからないくらい泣いた。心臓が締め付けられる。痛い。息ができない。
「あんな奴ら!はぁ、はぁ。死ねば!死ねばいいんだよ!はぁ、はぁ。」
「お、落ち着け!お前、落ち着け!」
副総長様が興奮している私を止めた。でも、私は止まらない。
「死ねばいい!はぁ、はぁはぁはぁ!!」
息が…。目の前が真っ暗になる。あっ、倒れる…。
バタンッ!