(詩織side)

あの次の日から3日間探し始めたが、手掛かりは何もない。

学校も退学してしまっていて、病気のことなどを先生が話した。

クラスの人たちは驚いていたが、私たちはそれどころじゃない。

あの日、家に帰ると玲菜の服やPC、バッグなどが消えていた。

本当に死を待つことしかできないの?

詩織は何も悪いことしてないじゃん。

神様は意地悪だ。

「詩織ー!手がかりを見つけたぞ!」

旬が走って向かってきた。

「ほんと?!どんな情報?」

「学校で、白衣を着たイケメンが玲菜を抱えて駐車場の方に消えていったって、その日職員室の前で見たってやつがいたんだ。」

「っていうことは、学校の先生なら知ってるってこと?」

「そういうことだ!行こう!」

これで、玲菜ちゃんに近づいてきた。

早く玲菜ちゃんに会いたい!
その思いが日に日に強くなっている。


でも、そう簡単には会えなかった。

先生に聞きに行くと、『その情報は言えない。』と言われた。

先生たちが知っているのは確か。

多分、れい玲菜ちゃんに口止めされているのだろう。

どこまでも計算高いなぁ!れいな玲菜ちゃんは…!

ピロリンッ!ピロリンッ!

LINEの音が聞こえ、画面を確認するとそこには玲菜ちゃんからのものだった。


「旬!玲菜ちゃんからLINE来た!」

「え?まじで?」

2人で画面を覗き込んだ。

内容は、

『探さないでっていったでしょ?』

それだけだった。

でも、その数秒後にまたLINEが来た。

『そこから近い大学病院だ。玲菜の悲惨な姿を見ても軽蔑をしないと言えるなら、来い。』


と…。悲惨な姿?そんなのどうでもいい!
玲菜ちゃんに会いたい。


「旬、みんなに連絡回して。
私たちは先に行こう。」


「あ、あぁ。」


私たちは急いで病院に向かった。

病院の受付あたりで、スラッっと身長が高くいかにもイケメンな感じの人が立っていた。

「あ、あの!」

「あぁ!君が詩織ちゃんか!玲菜から話は聞いていたよ!」

「あ、あの玲菜ちゃんに会わせてください‼」


「「俺たちも!」」

あとから、ぞろぞろときた。

これで、水神幹部全員揃った。

「じゃあ、まずは玲菜に会わせる前に病気の説明からする。

今、とても危険な状態だ。本人もほとんど寝たきりに近い状態。

新たに、心臓とは別の手術適応外の脳腫瘍が見つかった。

心臓は鼓動が遅く、血液の循環が悪くなっていて体が動かしにくくなってる。食欲もなく、やせ細っている。

大体のことを大雑把に説明した。

これを聞いてもまだ会いたいか?」


そんなの決まってる。

「「「「「「会いたい‼‼」」」」」」

全員一致で決まった。

でも、その先に待っていたのは恐ろしい現実だった。

ガラガラガラッ

「玲菜入るぞ。」

先生の言葉に玲菜ちゃんの反応はない。

シャー!

玲菜ちゃんを囲っていたカーテンが開くと、玲菜ちゃんの驚くべき姿が目に飛び込んできた。

その姿に私を含め、みな絶句した。

だって、あの華やかで美しかった面影はなく、点滴に繋がれている様は痛々しかった。

体は、やせ細っているなんて次元じゃない。

酸素マスクをしているが、息はしづらそうだ。

「こ、これが、あの生意気な玲菜か?」

あまりの違いに、雅也が無理やり絞り出した声でつぶやいた。

でも、私にはわかる。

この人は玲菜ちゃんだ。だって、私とお揃いのネックレスをしているから。

「玲菜ちゃん‼私!詩織だよ?わかる?」

玲菜ちゃんは意識はあるみたいだ。

「し…、お………り…?」

途切れ途切れの声で返事をしてくれた。

「こ……な、く…………て、も、い………い、……て………い、たの……に……。」

「ごめんね。どうしても玲菜ちゃんに会いたくて…!
さがしちゃった!」

私が、泣きながらおちゃらけて言うと、玲菜ちゃんは少し微笑んで、

「はぁ、…ば………か、だ……ね。」

玲菜ちゃんの呼吸が少し荒くなってきた。その時、

「面会は終了だ。」

先生が言った。当たり前だろう。玲菜ちゃんの体が一番だ。

「あの、先生。玲菜ちゃんの今の状態をもっと詳しく教えてください。」

「わかった。外出ろ。」

外に出ると、深刻な顔をして話し始めた。

「みただろう?あの姿。
もう少しで玲菜は死ぬ。脳腫瘍は既に手術のできない状態になっていて、根治は無理だ。

心臓は、アメリカの大病院なら5%の確率で治せる医者はいるだろう。でも、アメリカの大病院の金額は膨大だ。

もし、お金を工面できても、今の玲菜じゃ飛行機なんてもってのほか、この場から動かすのも危険だ。

アメリカに行けても、ドナーが見つからないと意味がないから。
玲菜の場合、治すまでの障害が多すぎるんだ。

玲菜は覚悟を決めたみたいだ。

死を待っている。」


「なに…。それ?私たちはのうのうと玲菜ちゃんのことを忘れて生きて行けっていうの?!」

病院に来て初めて美希ちゃんが喋った。

「本当に、このまま何もできないの?」

「あぁ、手は尽くした。ドナーも、アメリカの病院もお金も。
でも、手術をやってくれる医者がいなんじゃ無理なんだ。
成功する確率は、0%に等しいんだ。

悔しいけど、もう後は何もしてやれないんだ!

俺だって何とかしたいよ!でも、できないんだよ…。」


全員が泣いていると、

「久本医院長‼松井玲菜さんの容態が悪化しました‼」

その言葉で、先生の後に続いて玲菜の病室に急いだ。

ガラガラガラッ‼

玲菜の病室に入ると、規則的にピーッ!ピーッ!と鳴り響き、機械が赤く光っていた。

その状況は医療の分からない私たちにもわかるくらい十分すぎる情報だった。

「君たち、一回病室から出てね。」

看護師さんに追い出され、中の状況がわからない状態だ。

でも、ずっとピーッ!ピーッ!となっているのが聞こえる。

音が止まり、私たちは一安心した。

ガラガラ

病室から出てきた先生の顔に色はない。

先生の言葉を待つ。

「すまない、全力は尽くしたんだが…。
病室に入っていいぞ。」

みんな、病室に駆け込んで中にはいたが、死んだのだと一瞬わからなかった。もしかしたら、と言う期待を込め、玲菜ちゃんに近づいて声をかけた。

「玲菜ちゃん?起きてるよね?」

そう聞いても、さっきのような返事は帰ってこない。

「ねぇえ!玲菜ちゃん?起きてよ!!
玲菜ちゃん!おきてよ!玲菜ぢゃん!うわぁぁぁぁぁあ!」

私は泣き崩れた。

他のみんなも泣き崩れていた。

「玲菜ぢゃん‼」

そこからの記憶なんてない。

唯一覚えているのは、玲菜ちゃんのお葬式で呆然と1枚しかなかった玲菜ちゃんの笑っている写真くらい。

水神の人たちも同じだろう。

お葬式も何もかも先生に任せっぱなし。

理由もなく、ただただ水神の倉庫で呆然とする日々が続いた。

2日くらい経ってから、先生が水神の倉庫に来たんだ。

大きな大きな荷物を持って。

その荷物の正体は、玲菜ちゃんがまだ動けたときに、PCで私たちが玲菜ちゃんを探していることを知って、自分が死んだ後に渡すつもりの贈り物だった。

中には、1人ずつ手紙とブレスレットが入っていた。
これも、特注品なのだろう。それぞれの誕生石を調べ、水神の下っ端も含め全員分。色違いで入っていた。幹部にはブレスレットと誕生石のピアスが入っていた。

先生は、万年筆とネクタイとネクタイピンだったそうだ。

全員に向けての言葉が先生によって告げられた。


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みんな。腐ってるんじゃないだろうな?!

私が死んで腐ってたら許さないからな!

みんなは悔いのない人生を送ってください!


旬、家のこと。けりをつけなさい!

雅也、好きなら私みたいに後悔しないようにはっきり言いなさい!

葵衣、いい加減真面目にしろ!その腹黒ドSはマジでムカつくんだ!

美希、本当に申し訳ないことをした!素直になれ!

孝介先生、さっさと結婚しないとやばいんじゃね?

龍生、言えなくて後悔しています!龍生のことが大好きです!言えなくてごめんね!

詩織、詩織も素直になりなさい!あの家、あと30年住めるから!がんばって!


みんなはいろいろ経験してきているから、どんな人の立場でもわかるはずです。

やりたいことは諦めず挑戦してください。私はみんなの味方です!

残りの人生頑張ってね!勝手に死んでごめんなさい!

ありがとう。

松井玲菜

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また泣き崩れて、みんな正気を取り戻し、みんな初の玲菜ちゃんのお墓参りに行くことになりました。


(詩織side・END)