長い付き合いといえば、この4人……中学の頃から、先生などからして一括りにされてしまいがちな俺達だが、その性質はまるで違う。
ノリは体育座りで真面目らしく、黒川はド真ん中に仰向けに寝っ転がり、俺は足を投げ出すように壁にもたれ、剣持はさっそくタバコを吸いながら……似合い過ぎて文句も言えない。
黒川が口火を切って、話は自然と、あっちの事になった。
〝女のアソコって、最初見た時どうだった〟
「オレは、見んのヤダから見ない」
事実は分からないが、黒川らしいと言えば、そんならしい。
「別に。普通」
剣持は誤魔化すが、この中では1番、本当の所どうなのか聞いてみたくなる。
「僕は見せてもらえないっていうか」 え?ノリが?3年も経つのに?
「見たはずなんだけど、思い出せない」と俺はぼんやり答えた。
ぼんやり。
「そんな訳ねーだろ。1年も経ってないのに」
黒川に、何故か俺だけが突っ込まれた。朝比奈の事を当てこすっているようだが、実際は1年どころじゃない。これに朝比奈は無関係だ。
「そりゃ忘れるだろ。あれだけ経てば」と、剣持は煙を吹っ掛ける。
剣持は……ノリも知らないあの頃の俺事情を1から10まで知っている。
俺は背を向けた。動揺すればするだけ、追及される……。
剣持は、「この1年、俺なんか、そういう事とは全然遠ざかってるよ」と、まるで疲れた大人のように煙を吹き出した。
「あれだけモテるくせに。終わってるな、オマエ」と、黒川が憐れむ。
話がそれたと、ホッとしたのは一瞬で、「沢村と朝比奈って、いまどうなってる?」と、またすぐに突っ込まれた。
「もう何もないよ。メールもしてないし」
剣持とノリは無表情で聞き流した。
黒川も、わきまえてやるという覚悟なのか、訳知り顔だ。
「終わってるというか、沢村の場合は仕上がってる。てか、まだ次って見つかってねーのかよ」
生徒会で手一杯。「そういう事からは遠ざかってるよ」と、俺も剣持のような事を言ってしまった。
ふと……頭に宮原マヤと谷村アムが浮かんだ。
その頃には、すでに黒川の興味はこっちを通り過ぎて、「おまえらって、いつもどういう所でヤッてんの」と、その追及はノリに向かっている。
ノリは、体育座りのその腕を、ますますギュッと硬く結んで、
「そんなの、どこでもいいだろ」
「家?あっちの?オマエの?どっかで金払ってんの?」
「もういいだろが。その辺で許してやれよ」と、俺は助け船を出した。
「仲いーなぁぁ。キモいぞ。ノリ蔵とツルんで満足か?女は要らねーのか?」
「えーもう満足だ。お腹一杯だし」
実の所、それが実状のような気がする。
「そう言う、おまえはどうなの」
返り討ち、黒川に聞いてやった。
実の所、聞いてもらいたくて仕方ないのだろうと思っていたら、
「ライン相手、ゲーム相手、たくさんいるけど本命は居ない。終わり」
「吉森はどうした?」
「あんなブス。オバはん。いい加減にしてくれよ。マニアかよ」
俺達3人は顔を見合わせた。「「「素直じゃねーな」」」
女子高だろうがOLだろうがガツガツと見境無い黒川が、唯一、遠慮してラインすら聞き出せないでいる。
それが、我が校で前田敦子激似のアラサー、〝吉森のぞみ先生〟なのだ。
「それを言うなら、沢村と右川だって怪しいじゃん。よく言ってる〝あれ〟って何だよ」
やはり黒川は油断ならない。
そこに、「あれ?」と、剣持までもが食い付いてしまった。
「なーんか、その〝あれ〟が原因で、やたら仲良く盛り上がってんだよ」
「仲良くなんか盛りあがってねーよ」
「だから!そういう1番ツマんねー切り返しすんな」
黒川に足蹴にされた。
「右川さん、頭良くて面白いから、洋士も話してて楽しいんじゃないかな」
ノリは、それでも俺を援護しているつもりなのか。恩を仇で返しやがって。
俺は、その脇腹をド突いてやった。
物は相談だが。
「右川みたいな、ああいう口の達者な女子ってさ、どうやったらギャフンと言わせられるかな」
本気で知りたくて、俺は大マジで訊いたんだけど。
「そんなの簡単だろ。それこそ〝あれ〟だよ」
黒川はにやりと笑って、
「転がして、その達者な口を、ふさげ!」
……聞くんじゃなかった。(ったく!忌々しい。あんな事さえなければ!)
午前2時を回った。
俺達はこっそりと部屋を出る。去り際、剣持がそっと俺の側にやってきた。
「あのさ、実は俺、藤谷と付き合う事になっちゃって」
とうとう1人に決めたという事か。
「あー……」と、俺は納得で頷いて見せた。
「おまえには最初に言っとこうと思って」って、「何で?」
いや恐らくその昔、俺と藤谷は噂になった事があった。
剣持はそれを気にしているのかもしれない。
「周りは勝手に言うけど、俺と藤谷とは何でもないから。そういうお断りはいいよ」
「あ、いや。そう言う意味じゃなくて」と、剣持は照れくさそうに、
「沢村に言っといたら、何かあった時、助けてくれそうかなって」
〝信じていいかな?〟
いや、俺にはノリが居るから……とは、さすがに言わないが、これはある意味、濃厚な告白のようにも思えた。俺とノリでさえ、ここまでストレートに信頼感情をさらけ出す事はあまりない。碓井でも砂田でもなくて、俺。剣持のような別格男子に信頼を寄せられていると思うと、少々、浮足立ってくる。
こういう時、思うのだ。
剣持は、女子にあれだけモテながら、同輩男子の敵に回る事が殆ど無い。
それは、見た目肉食の筋肉男子でありながら、たまにこんな可愛気を感じさせるから……なのかも。
「何て言うか。あ、ありがとう。ま、うまくやれよ」
こっちも、出せる1番の可愛気を発揮してみた。
剣持の可愛気に比べたら、何となく冴えないか。
未明、自分の部屋に戻った。
部屋に入ると、鈴原が、健やかな寝息を立てて眠っている。
枕もとには、きちんと畳んだ衣類が置いてあった。
「真面目か……」
やっぱり右川には勿体ない気がしてくる。今朝のように右川が駄々をこねたら、今度は鈴原か海川がその首根っこを捕まえて、連行してくれたらいいのに。
鈴原なら、俺のように、ぷい!と無視される事もないだろう。
俺は、鈴原を起こさないように、ゆっくり、その隣の寝床に滑り込んだ。
今日は色々あり過ぎた。
瞼の裏に、宮原マヤと谷村アムが交互に浮かんで消える。
可愛い(?)剣持と、可愛気のないチビも浮かんで消えた。
あ、生徒会への土産……。
起床時間6時まであと3時間。
今は、泥のように眠る。





<Fin>

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第5話 予告。
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修学旅行、その2日目と3日目の最終日。

吹奏楽・重森が不穏な動きを見せる。
宮原と谷村に挟まれて、沢村の周辺も慌ただしい。
帰りたい……言い続ける右川の、また1つ、その理由は?

〝雪解け〟という思いがけない旅行土産。
そして、ヤバい忘れ物。

吹奏楽とバスケ。2つを敵に回して、右川カズミが暴走!
沢村は、修学旅行を無事終える事が出来るのか。
ご期待下さい♪