夏祭りの日

去年は期待して張り切った浴衣姿だったけど
苦い想い出が蘇って同じモノに袖を通すのをやめた。

簡単なティシャツにショートパンツ。
でも先輩は私服の私が新鮮で可愛いと言った

先輩はいつも期待以上の言葉を言ってくれる
それなのに、ドキドキしないのは?

期待することをやめちゃったから?





「梓〜!」と元気に声をかけてきたのは
去年とは違う可愛い浴衣姿の舞花だった。

その周りには陸上部がドッサリ集まっていて
ニヤニヤとこちらを見ていた。

そして勿論アイツもいた。

「舞花の浴衣良いね!梓も浴衣着れば良かったのに、絶対可愛いかったと思うよ?」

先輩は、恥ずかしげもなく
そういうこと言えちゃうんだよね。
逆にこっちが赤面するわ…

「先輩、梓の去年の浴衣姿可愛かったんですよー。見れなくて残念ですねー」

と、舌を出して笑う舞花に…

「浴衣が良かったんだよ。
まるで別人じゃん、マゴニモイショウ」

と門倉が言った。




なにそれ。
私のこと見てたってこと?


だったら、なんであんな態度だったわけ?





「そうか〜〜残念だったな〜。
じゃあ来年の夏祭りは浴衣姿で来ような」

先輩の誘いに返事をしようとした瞬間
被せるかのように

「先輩は見れないっすよ、高校が違うから」と門倉が言った。


なんで私の返事を
あんたがするわけ?


「俺は天才だけど
おまえは頭悪いからなー
同じ高校には行かれないだろうなー」

『あのねー、いつあんたと同じ高校に』
言いかけた瞬間、門倉の大きな手が
私の口を塞いだ。

「俺はおまえと
同じ高校行きたいと思ってるよ」




は?


なに?


どういう意味?
それって友達として?


意味がわからないよ。



「梓、くじ引き行こうよ!なんか盛り上がってるよ!」

先輩は、門倉の話が聞こえなかったかのように対応して私の手を引っ張った。


少し強引な先輩に小走りでついていくのが
大変だった。


舞花や門倉達に言葉をかけることもなく
立ち去ったことが少し気になったけど
後ろを振り返る余裕もなかった。


先輩、何も言わないんだね。

怒ってる?


先輩の顔色をみた瞬間に
よそ見したせいで顔が誰かの肩にぶつかった


痛っ!




ん?



あれ?



恭子ちゃん?




ぶつかった肩の持ち主は見た事がない
少しハーフ顔のイケメンだったけど
その隣で腕を組んでいたのは
紛れもなく、門倉の彼女の恭子ちゃんだった


どういうこと?
門倉の彼女じゃなかったの?
まさか二股?


急に頭に来て、先輩の手を振りほどいて
門倉達の元に走った。



『あんたさ!
ちゃんと捕まえておきなさいよ!』


キョトンとした顔で私を見る門倉。

『いつも、いつも
私に意味のわからないことばっかり
言ってきたりするから
こんなことになるの!』


「おまえこそ、何わけわからねーこと
言ってんだよ!」


座りながらかき氷を食べていた門倉の目の前に腕を組んで仁王立ちになった。

『わけわからないのは、そっちじゃない!
ちゃんと捕まえておかないと他の男にとられちゃうんだからね!』



最高の友達に悲しい思いをさせた恭子ちゃんに怒ってるのか
また期待させるコトを言う
門倉に怒ってるのか
また期待してる自分に腹が立ってるのか
わからなかった。


とにかく腹が立って、仕方なかった。


門倉がかき氷を地面に置いて
私の前に仁王立ちになった。

『な、なによ。』

夏祭りまでに、少し背伸びた?
急に門倉が大きく感じた。


私の組んでいた腕を振りほどき強く握った。


「捕まえた。」


え?なに?

今度は私がキョトンとした。

『いや、だから違うから!
恭子ちゃんがさっき…』

「あぁ?恭子?
俺、あいつと付き合った覚えねーけど」


『え?だってキャンプのあと‼︎』

「だから、付き合ってねーって!」

どういうこと?
だって一緒に帰ってたじゃん!


胸が苦しくなった。


『それならなんでそう言わないの?』

「聞かれてねーし」

『そんなの聞けるわけないじゃ…』

「うるせ。」

『はぁー?うるさいってなによ!
だって私はずっとそれが気になって!
ずっと、ずっと…』

もうなにが言いたいかわからなくなって
言葉が詰まった。
同時に頬につたうものがわかった。


「わかった、わかった。」

いつもより優しいトーンでそう言うと
また前髪が目に触れた。

いつものヤツ。


また、期待しちゃうじゃん。


涙に気付かれないように下を向いた。


それをさとったように、
頭に置いた手が門倉の胸に私を引き寄せた。

『捕まえた』


期待していいの?
ちゃんと言ってくれないと
私、馬鹿だからわからないよ?

「捕まえたら離さないでよ!」

耳元でかすかに優しく笑うのが聞こえた。


『今日はヤケに素直じゃん』


オデコにかき氷のように冷たくて
柔らかい感触がした。






------- END-------