年に1回開催される
地元のジャンボ公園での夏祭り

舞花のおかげで
普段とは違う自分に心が躍る

オシャレなんてまったく興味がなかったけど
浴衣を着て髪をアップにするだけで
こんなにもテンションがあがるなんて
知らなかった。

門倉はどう思うかな…


少しずつ期待が膨らんでいった。



「梓!陸上部いたよ!
裏の出口のとこのベンチにいた」


かき氷の屋台の列に並ぶ私に
トイレから戻ってきた舞花が耳打ちする。



やっぱり来てたんだ‼︎



「かき氷を食べる場所を探すふりして
バッタリ会ったようにしちゃおうよ!」


会いたい。
でも、しらじらし過ぎて恥ずかしいな…



「んもぅ!今日は何のために来たのよ!」


舞花の言う通りである。
門倉が夏祭りに来るからって
わざわざオシャレして来たんだった。


恥ずかしがってる場合じゃない!
せっかくオシャレしたんだからっっ!




目的地に向かうほど
夏祭りの賑やかさとは少しずつ遠くなり
少し目が慣れるまでは時間がかかった。



いた‼︎‼︎‼︎


目を凝らさないと誰だかわからないくらいの
暗いベンチは
確信犯の私達にとっては
演技をしなくていいから丁度良かった。


冷たいかき氷が
緊張のドキドキで溶けてしまうんじゃないか
て、思うほど体が火照る。


早く気付いてー!




「おっ!仁科じゃね?」

聞き覚えのある声は、斉木だった。

「え?誰〜?」

舞花よ、しらじらし過ぎるぞ。
目が慣れてない暗闇とは言え
さすがに斉木の声だってのはわかる。

毎日サッカー部で声を出し続けてるせいで
いつもガラガラ声の斉木は
誰よりも特徴的な声だった。


「俺だよ、斉木〜!
あ。おまえら2人で来てたんだな〜!」


「斉木かー、そっちは誰と来てるの?」


またもや、しらじらしく質問する舞花に
私は言葉が詰まる。

だって、すでにもう目が慣れてきて
そこにいるのが誰だかわかったから。


こんなに冷静でいられるのは
そこに門倉がいなかったからである。


斉木と渡辺と近藤の3人。
渡辺と近藤は
陸上部でも
いつも門倉と一緒にいるのにな…



今日は一緒じゃないんだ。
て聞けなかった


渡辺と近藤が
私が門倉から聞きたかった言葉を
サラッと言っちゃうもんだから…


門倉は一緒に来てないの?
て聞けなかった




今日は可愛いじゃん。




サラッと言うなよ!そんなこと!



「あれ?もしかして照れてんの?」



門倉がいないガッカリと
聞きたい言葉が
門倉じゃない人から言われたガッカリと
二重でガッカリだったから
かき氷を食べてただけなのに…

照れてる⁉︎とか…

つくづくムカつくわっ!



「おー!こっちこっち!」
急に近藤が大きく手を振った。



手を振る方へ目線を送ると、
門倉が少し息を切らして歩いていた。





なに!この不意打ち!
ガッカリモードのおかげで
さっきまでのドキドキが消えてたのに

また急に心臓がドクンと音を立てた。