「おまえ、人の下駄箱の前で
なにやってんの?」

背中越しに門倉の声が聞こえた。

やだ。
なんでこんな時に限って来るわけ?


来て欲しい時には来ないくせに!
本当にタイミング悪いやつ!


『た、ただ、そこで転んだだけ』


馬鹿わたし!

中学生にもなって転んで泣くわけないじゃん


また自分の言葉に赤面する。


『邪魔で悪かったわね』


「痛っ!」

立ち去ろうとした私に門倉が腕を掴む。

「そんなこと言ってねーじゃん。」

黙る私の腕を強く引き寄せた。

「おい、聞いてんの?こっち見ろよ」

もう顔ボロボロ。
そっちなんて向けないよ。

「おまえ最近おかしくね?」

門倉だっておかしいじゃん。
嫌がってたはずの
恭子ちゃんと付き合っちゃってさ。
私はあんたのなんなのよ!


思ってることは沢山あるけど
言葉に出しちゃいけないことばっかりで
唇をかみしめた。


「俺が何したか知らねーけどさ。
おまえがそんなだとつまんねーよ。」


ズルイよ、
またそうやって期待させる言葉いって。


「おまえとはさ、ずっと最高の友達でいたいんだよ。」


ずっと最高の友達…


そっか、そうだよね。


本当は聞きたくなかった言葉なのに
胸のつかえが取れたかのように
急に涙が止まった。


本当はもっと泣くと思ってたのに
現実は違ってて
自分でもビックリした。

『やっと私のありがたみがわかったか!』

振り向いた瞬間に門倉のスネを蹴った。


「痛ってぇ!何すんだよ!」


解かれた腕で涙をふいた。

『門倉が悪いから蹴ってやっただけ!
じゃーねー明日なー。』

目一杯明るくして
渾身の『じゃーねー』を言ってやった。



私の初恋、じゃーねー。
昨日までのグズグズの私、じゃーねー。
明日からは、アイツの最高の友達の日!
きっと、楽しいはずだから…