「いやー驚いた驚いた、まさかあの西条郁也が女の子のこと待ってるなんてね!」


目の前でゲラゲラと声をあげながら笑う雄也。それを「だまれ」と言いながら睨む郁也。

どうやら2人は幼馴染の腐れ縁というやつらしい。

あの後、とりあえず話でもするかということになり、私たちは近くのファーストフード店に来ていた。

隣に座っている郁也は殺気立っているものの、『王子様』の仮面は完全に外している。それって心を許してるってことだから、きっとふたりは仲良しなんだと思う。


「仲いいんだねえ」

「えっ、そう見える? 腐れ縁なだけなんだけどねー。小学校からずっと一緒だもん。な、郁也?」

「まあな」


郁也はイキナリなんだか照れくさそうだ。


「コイツ昔っからモテてさー。中学の入学式なんて、その日にテニス部の一番可愛い先輩から告られてんの!」

「へえ、そうなんだ……」

「そんなこと忘れたっつうの」



郁也がまた機嫌を損ねて黙りこむ。

わかっていることだけど、郁也ってモテるんだよね。こんな性格だけど、表の顔は王子様を貫いてるし。

というか時々忘れそうになるけど、郁也の外見は超がつくほどイケメンだ。モテないわけがない。


「でもさ、こいつ絶対彼女だけは作んなかったの」

「えっ」

「……」


郁也が黙りこむ。たしかに、言い寄られてばかりで自分から恋なんてしたことないし、彼女なんていたことないって言っていたけど。

こんなにモテて彼女がいなかったなんて内心信じられなかった。

でも、つまり、それって。


「林檎が、郁也にとって初カノだよ」


雄也がにっこり笑ってそんなことを言ってのける。

初めてって、なんでこんなに嬉しい響きなんだろう。というか、初めての彼女が私でいいのかな、もしかして郁也ってB専????


「こいつは他の女とちげえんだよ」


ぽん、と郁也が私の頭に手を乗せる。


「雄也、テメーも手出したらぶっ殺すからな」


雄也が「こえー」と言いながらケラケラ笑う。こんなの好きって言ってくれるのは物好きな郁也くらいだよ。

でも嬉しいな。

頰に手をあてるとすごく熱くて、自分の顔が赤くなっているのがわかった。もう、ずるいな、郁也は。