その瞬間、バッと無理矢理手が離される。そして、心底驚いたような顔をして郁也が私を見ていた。
郁也がおそるおそる自分の頬に手をやる。
顔は赤いし、目は真ん丸だし、信じられないくらい動揺しているのがよくわかる。散々私に勝手にキスしたくせに、そんな反応困るよ。
きっと、こんな郁也、私しか知らない。かわいいなんて、そんなこと思っちゃうよ。
「……ちょ、マジで、反則だって……」
そのまま下にしゃがみこんで顔を伏せる。髪から覗く耳は真っ赤に染まっている。
自分は、あんなキスしてくるくせに、されるのはダメなのか。変なの、私はされるより全然ヘーキなんだけどな。
クスリと笑うと、郁也が「おまえなあ……」と愚痴愚痴言っているのが聞こえてきてまた笑えてしまう。
そのまま、郁也の目の前に私もしゃがみこむ。誰かをすきになることが、こんなに胸があったかくなることなんて知らなかったな。