『林檎ちゃん、今度遊ぼうよ』


そんな誘いを受けたのは、夏休み前の掃除の時間。階段下の少し薄暗い空間で、一緒にほうきを持っていた男の子だった。

席が斜め前の彼は、口数が多い方じゃない。けれどたまに会話をしてくれて、笑顔が可愛い人だった。

わたしはそんな彼のこと、少しだけ気になっていて。



『うん!いいねー!誰誘う?!あおちんと、ユウカと、さなえと……』

『いや、できれば2人で……ってことだったんだけど』

『そっか!ふたり……2人?!!』



男の子からそんな誘いを受けたのは初めてで、動揺する私。目の前の彼は私の反応にクスクス笑った。

顔が熱くなるのがわかる。私って単純な奴だ。


『うん。……映画でも、どう?』


彼は目立つ方ではないけれど、そのミステリアスな雰囲気からか、女子から密かに人気があるのを知っていた。

私との接点は、席が斜め前だってことと、この掃除当番の場所が同じってことだけで、特別仲が良かったわけでも悪かったわけでもない。

そんな彼が、まさか私を誘ってくるなんて驚きと戸惑いと、それからほんの少しの期待。気になっていた彼が、好きな人に変わる瞬間。



『うん……いいよ』


そう言ったら、彼は笑ってくれた。握りしめたほうきが、熱を持って熱くなったのを感じた。