「キ……」


その先の言葉、『キス』なんて。こいつの前で言ったらどうなるだろう。この前みたいにキス、されるかもしれない。



「……なんだよ、早く答えろ」


段々イライラしてきたのか、限りなく不機嫌な郁也。この間は、あんなに優しくキスしてしたくせに。……いや、優しくはなかったか。



「だ、だから! 私と郁也がっ……」




ええい、もうどうにでもなれ!
聞いてきた郁也が悪いんだ!




「郁也とキスとか……それ以上シたのかとか……なんか根掘り葉掘り聞かれました! してないししたくないって答えました! 以上!」



これでどうだウハハハハ!

開き直った朝日林檎は強いのである。例え相手が学校イチのイケメン西条郁也だとしてもーーーいや、ちょっと待って、あの、えっと。

……目の前に立っている郁也が、ものすんごいこわーい顔で私を睨んでいるのですが。


「……っていうのはウソ…….」

「あ゛?」

「い、いや、なんでもないでっす……」



郁也の顔色を伺いながら恐る恐る逃げようと後ずさりすると、それを見逃さなかった郁也が咄嗟に私の手首を掴んだ。


「逃げんじゃねえ」

「……ば、バレましたか」

「殺すぞお前」

「それだけは勘弁……!」



あまりの殺気に目をつむる。ゲンコツの1つでも落ちてきそうだと思ったのに、いっこうになにも起きないのでうっすらと瞳を開けた。

その瞬間、真っ直ぐに私を見つめる郁也と視線が絡んだ。



「……じゃあ、する?」

「……はい?」



私はそのまま郁也に腕をつかまれて、すぐ後ろにあった机の上に押し倒された。

それは余りの神業で、抵抗する余裕すら持たせてもらえなかった。いや、ていうか待て。なんだこの状況は!