「で? 林檎チャンはいったい、何の話してたのかな?」


郁也お得意のよそ行き王子様スマイルを振りまいて、空き教室の扉をぴしゃりとしめる。

いや、目が。目が笑ってないんですけど。



「な、なんの話って、アハハ…」

「んー? 俺に言えないようなこと?」

「ちが……わなくもないけど、なんていうか、その、……」



しどろもどろ話す私にしびれを切らした郁也が盛大に大きなため息を吐いて、王子様スマイルをやめた。つくり笑いもここまでくると恐ろしい。


「いいから、説明しろ」


とっても低い声に体がびくりと跳ねた。なんという威圧感なんだこいつは。


「だから……あ、綾香がイキナリ話しかけてきて……」

「話しかけてきて、なに?」

「郁也と……」


続きを言おうとして、私は言葉を止めた。

だって、冷静に考えてみれば、コレっておかしくない?

『郁也とキスとかそれ以上シたのか聞かれました』って言うの? 本人を目の前にして? 『してないししたくもない』って答えましたって言うの?

いや、無理にも程がある。そんなこと言ったら今度こそ殺されかねないでしょうが。


「俺と?」


真っ直ぐに郁也に問いかけられてグッと言葉に詰まる。なんかじりじりと距離を縮められている気がするのは気のせいでしょうか。


「キ、」

「……キ?」