□
「ねぇねぇ、林檎ちゃん!」
お昼休み、いつものように舞とお弁当を広げていると、クラスメイトの女の子たちに囲まれた。
ほどほどにかわいくて愛嬌があるって感じのグループ。たぶん良くも悪くも普通って感じのところだろう。
「何?」
「ねね、西条君と付き合ってるんだよね?!」
その問いかけにギクリと表情が固まる私。何度も聞かれてきた質問だけど、未だになれない。
第一、あのキスをされた日から、実は私は郁也を避け続けている。ファーストキスを奪われて怒っているのもあるけれど、やっぱりなんか恥ずかしい、し…。
「う、うん……まあ、一応……」
「わっ!やっぱ本当なんだね!」
「いいなあー、あんなイケメンの彼氏!」
「ねえねえ、ていうかさ!郁也くんって、どんなキスするのっ?!」
突然の問いかけに、飲んでいたジュースをブハッと吐きだしそうになってしまった。ギリギリセーフ。目の前の舞が汚そうに私を見ている。
いやいや!今のは質問が悪いでしょカンペキにっ!
「な、何言ってるの?! き、キスなんてそんなっ……」
私、ちゃんと笑ってる?!確実に顔ひきつってる気しかしないけど!
そんな私なんておかまいなしに、クラスメイト達は話をどんどん広げていく。
「もしかしてまだしてないとか?!」
「郁也くん王子様だもんね〜」
「紳士っ!」
「えー、でもさ、郁也くんってああ見えて実はスゴイらしいよ?」
「……スゴイ?」
「来るもの拒まず! 手出すのはメチャメチャ早いって有名だよお? まさか林檎ちゃん、まだされたことなかった?」
「へ、へぇ……」
その噂はカンペキに当たっているでしょうね。
まず私は入学初日に郁也と美人さんの濃厚キスを見てしまっているしね。
それに、好きでもない私にあんなキスするんでしょうから、そりゃあそうでしょうとも。
……わかってるはずなのに、何故か心がモヤモヤする。