女が出て行ったあと、ひとりで床に座り込んだ林檎を、俺はただぼうっと見つめていた。


「いったいなあ、もう……」


あの時、女が振り下ろした椅子が林檎の腕にかすった。…….そりゃあ痛いはずだ。

かすかに震える林檎の肩。

……強いふりをして。本当は、こんなにも弱いのに。


「バーカ……」


だめだ。涙目なんてぜってえ見られたくない。俺は背後から林檎に近づく。


「いく、や……?」


やめろよ。そんな声で、俺の名前を呼ぶな。

ゆっくり、優しく。俺は林檎を後ろから抱きしめた。抵抗されなくてほっとして、少しだけ力を入れる。



「……ごめんな」



俺の顔、すっげえカッコわりいと思う。

だって、愛おしいとか、そんなバカげた感情を押し殺してる、そんな顔だ。多分。