「うるさいっ……はなせばかあっ…」



必死に抵抗するも、涙のせいで変な声しか出ないし、力は入らないし。

郁也はなにも言わずにずっと私を抱きしめてた。私の体を、離してくれなかった。


顔は見えない。


後ろから伝わってくる体温に、また泣けてしまう。こんなところ見せたくなかったのに、郁也のばかやろう。おたんこなす。



「ごめんな、林檎、ごめん」



謝らないで。

ねえ私なんとなくわかったんだ。
郁也が仮面をかぶる理由。

外見がいいって、いいことだらけじゃないよね。こんな風に郁也も、たくさん傷ついてきたんじゃないの? だから自分を隠して、王子様やってるんでしょう?



「……郁也の、バカ……」

「うん、ほんとにな」



涙がちょっとずつひいてゆく。郁也のぬくもりが、あったかいせいかもしれない。


「イス、当たっただろ」

「見てたのっ…?」

「ごめんな、でも俺が出て行ったら余計にややこしくなるかと思って。……まさか当たるとは思わなかったんだよ」

「……痛かったんだからっ……」


あーあ、内緒にしようと思ってたのに。
郁也するりと、私から離れた。抱きしめられているときのあたたかさが消えてゆく。


「……いたい、……」


郁也のバカ。どうして離すの?
また泣けてきた。おかしいな、私こんなに弱かったかな。