「もう郁也のバカ、泣かせないでよ……」


ひとしきり泣いた後。崩れてしまったメイクを気にしながらハンカチで涙を拭くと、郁也が顔を覗き込んでくる。


「サプライズになった?」

「うん、サプライズすぎるよ」


郁也が嬉しそうに席を立つ。私の方に来ようとしたんだろう。

その瞬間、カバンが椅子に引っかかって、中から荷物がザっと落ちた。


「もー、郁也バカだなあ」


そう言いながら拾った雑誌が、落ちた拍子に開いていたページは。


『告白が上手くいくおまじない』

【女物の香水を少量つけていくと、緊張がほぐれて成功率80%!】



ああ、もう、ホントに郁也って、馬鹿。


「郁也、これ」

「え?あ、おま……見たっ?!」


思いっきり私から本を奪い取った郁也を見て。郁也って性格に似合わず可愛いところあるよなあって思ってしまう。ほんとうに、そういうとこズルい。


「郁也っ」


思いっきり、郁也のネクタイを引っ張った。

そして、自分から、触れるだけのキス。



「好き、超好き、世界一好きだよっ!」



郁也は片手で口を押えながら顔を赤くする。未だに慣れていないその反応がかわいくて。


「おっまえなあ……!」


高校時代と反応が変わってないね、自分がするのはいいのにされるのはこんなに照れるところ。



「あははっ」

「んだよ、」



そう言いながらつられて郁也も笑う。



ねえ、こういう日々が。


こういう時間が、何よりも大好きなんだよ。