「郁也、忙しかったの?」
「ん。わかる?」
「うん。忙しかった、って顔してるよ」
ははっと笑った後、「今日のためにちょっとね」と言葉を濁す。久しぶりに会うために、私もギリギリまでレポートを書いていたから気持ちはわかる。
つながれた手から、郁也の鼓動が伝わってくる。逆にきっと、私の鼓動も伝わってるかな。
「……郁也、最近女の子と遊んだでしょ」
「はあ?そんなわけないだろ?」
そんなわけないのはわかってるけど。
だってさっきから、郁也の服、女物の香水の匂い。
「じゃあ、この香水誰の?」
「え?匂う?」
郁也は自分の服の袖を鼻にもっていって。
「ホントだ」
何て言って顔をしかめた。
「郁也のウソつき」
「いや、嘘はついてねえよ」
顔を膨らませた私を見て、郁也は優しい笑顔で笑った。わかってるよ、郁也は私を裏切るような人じゃない。
きっとまた女の子に絡まれたんだろう。こんなにカッコいい郁也がモテない方がどうかしてるもんね。
郁也の笑顔が、「嘘じゃない」って言ってるからきっとそう。これだけ長く付き合ってるんだから、わかるよ。
まあ、彼女として彼氏がモテるのは嫌な気分はしないけど……。郁也が他の女の子に興味を示さないってわかってるからなんだけどね。
「あれ?っていうか、ここ……」
喋りながら歩いていたせいで気づかなかった。いつの間にか着いていたその場所は、私たちが出会った、あの高校だった。