おどろいた私を見て、郁也が小さく溜息を吐いた。
「ごめん、俺が無理やり……舞に聞いた」
「そ、っか……」
「勝手に聞いて本当に悪いと思ってる。でも、林檎のこと、ちゃんと知っておきたかった」
舞も郁也も悪くない。わかってる。
でも、どう思っただろう。郁也はあの話を聞いて、どう感じただろう。
「……そんなことでって思った?」
「思うわけないだろ」
実際、遊ぼうと言われてノコノコついて行って、知らない男の子たちに触られそうになっただけの話。口にすれば簡単で、そんなことで何を大袈裟な、という人だって少なからずいた。
でも、たまらなく怖かった、あの時。
好きな人がウソをついていたこと。私が見ていた彼とは違う顔をしていたこと。誰もいない場所で男の人に囲まれたこと。強く掴まれた腕、無造作に触れられる力の強さ。声、背、力、威圧感、全部怖かった。
男子と女子、中学生でさえこんなにも差があるものなんだって、思い知らされた。
「ねえ、郁也」
「何?」
「好きな人をこわいって思うのって、案外すごく……苦しいものだよ」
「……」
「今を変えることはできるけど、」
ごめん、郁也。
私は本当に弱虫だから。
「過去は、もう、変わらない。……変えられない」
大好きだからこそ遠ざけてしまうの、ごめんね、そうやることでしか大切にできないの。
ごめんね、郁也。