現国の授業中。俺の隣の席は空いたまま。

午後の授業なんて眠いだけで、ほとんどのクラスメイトが机に突っ伏している。センセーはそんなの御構い無しに授業を進めているけれど。


……あの日、林檎を雄也がいるのを見て。ハッキリ言って、マジでイラついた。カッコわりいけど、それが嫉妬心だっていうこともちゃんとわかってて。

でも、俺が声をかけた途端、犬のようにしっぽをふる林檎を見たら、なんかどーでもよくなってさ、キスなんてしてしまう始末。ほんとどうかしてる。


手を握ったのが悪かった? それともやっぱりキスしたこと?『過去の恋』なんて言葉を発した俺が、馬鹿だったのか?


「ヨシケンくん」


王子様スマイルを振りまいて、前の席のヨシダケントーー通称ヨシケンの肩を叩くと、驚いたように振り向いた。


「なんだよ西条、授業中に珍しいな」

「いや、みんな寝てるしいいかなって」

「まあ、確かに」


辺りを見渡せばほとんど寝ているんだから、多少の雑談くらいいいだろう。


「それで、どしたの」

「ちょっと相談なんだけどさ」

「ええ、あの西条王子が?! 」

「やめてよ」


ああ鬱陶しい、この王子様キャラってヤツ。世間体と自分のために貫いてきたけど、そろそろ破ってもいいんじゃねーかと思い始めてしまう。


「……彼女にさ、過去の恋愛聞くのってヘン?」


俺は、林檎のことが知りたかったから聞いた。

今の林檎はもちろん、今までの林檎が、どんな恋をして、どんな人に惹かれて、どんな風に生きてきたのか知りたかった。深い意味なんてまるでなくて、(そりゃあ林檎が処女だったら超うれしいけど)単純な疑問だった。

質問を投げかけたっていうのに、視線をあげた先には目を丸くしたヨシケンが俺を見つめていた。


「……何?」

「いや、あの西条王子でもフツウに恋愛相談とかするんだなって思って」

「俺のことなんだと思ってるの」

「女になんて困ったことなさそうなのに。てか、相手は朝日サンだよね? すげえ、ホントに好きなんだ」

「……やめて、恥ずかしいから」

「ちょっと西条王子、顔赤くしないでよ!クソかわいーじゃん、俺オトコだけど好きになっちゃいそう」


だめだコイツは。ていうか何フツウにただのクラスメイトなんかに恋愛相談しちゃってるんだよ、俺は、おかしいだろ。


「……で、どうなの」

「いやあ、西条王子ほど経験豊富じゃねーからわかんないけど……別に付き合ってればフツーじゃね? 自然にそーいう話になるっしょ」



ヨシケンは、そんな風に言う。俺は「そっか」と返したけど、その後も根掘り葉掘り質問ぜめしてきたのでとりあえずテキトーに返事をしておく。


ああやっぱ、ぜんぜんわかんねえ。

何がいけなかったんだよ、林檎。