「今の雄也?」

「そーだよ! たまたま会って」

「たまたまねえ……」


せっかく会えたというのに郁也は眉間にしわを寄せてイキナリ私の手を引いた。そしてスタスタと歩き出す。


「え、ちょっと郁也、どこ行くの?」

「……」


何も答えないで、待ち合わせていた噴水広場から離れて人気のない路地裏へと歩いていく。なんなの、機嫌悪い。


「ねえちょっと郁也、離してよ」

「……」

「郁也ってば!」


バッといきなり振り返ったと思えば、腕を掴まれて壁に押し付けられてしまった。路地裏だからか、周りに人気はない。

やだな、こういう空間、こういう雰囲気、あの日を思い出してしまう。


「ちょっと、なに……」

「雄也と何話してたんだよ」

「何って、ふつうに、世間話だよ」


まさか郁也のことが大好きという話をしていたなんて本人の前で言えるわけもない。


「ふうん、楽しそうだったじゃん」

「楽しそうって、雄也は友だちでしょ」

「……無防備」

「なにそれ」

「男とたのしく話してんなよ」

「男とって……郁也のこと大好きって話、してたのに……」


不機嫌そうに顔をしかめていた郁也が目を丸くする。言うんじゃなかった、恥ずかしい。


「……なにそれ」

「郁也のどこが好きかって聞かれたから、その……」

「オマエさあ、ほんと、勘弁して」

「勘弁って、そんなひどいこと言ってなーー」

「だから、かわいすぎんだよアホ」


その瞬間、郁也の唇が私のそれに落ちてきて重なった。


コイツ、また同意なしに私の大事な唇を奪いやがったーー!