「ただいま」


そう言いながら靴を脱いで階段を上る。

下から母さんの「今日はご飯いらないのー?」なんて言う声に「いいや」と返す。さっきまで林檎と雄也とハンバーガーを食べていたから腹は空いてない。

自分の部屋のドアに手をかけ、開けると同時になかから驚くほど陽気な声が聞こえた。


「おかえりー!」


ドアを完全に開けてから帰ってくるんじゃなかったと後悔する。コイツほんといい加減にしろ。


「……何やってんだよ、雄也」



そこにいたのは、さっきまで林檎と3人でいたはずの俺の幼馴染、雄也だった。

林檎を家まで送り届けている間に俺の家にやってきたらしい。母さんもひとこと言ってくれればいいのに。

家が隣同士で、小さい頃から一緒にいたせいで俺も雄也もお互いの家をこうやって好き勝手に行き来できてしまう。

雄也はベットに寝ころびながら、俺の雑誌を勝手に読んでいる。


「だって今日家帰りたくねえもん、積もる話も沢山あるし」

「おまえなあ……」


雄也の家は、家庭環境が複雑とは真逆でとにかく仲がいい。実際、小さい頃から雄也の家族には俺もよく遊んでもらった。

なのにコイツが〝帰りたくない″ なんて台詞を吐くときは、決まって何かあるときだ。


「なんなんだよ。林檎のとこは何も聞くなよ」

「えーつまんないの、それがメインでしょ」

「なんで俺がお前に恋話しなきゃいけねえんだよ」

「じゃあ俺の恋話でも聞く?」


なんだよ、雄也らしくないな。

雄也のルックスは整ってる。(まあ俺には及ばないけどな)女に困ったことなんてないだろうし、むしろあっちからホイホイ寄ってくるくらいだろう。


「何? おまえ最近彼女とかいたっけ?」

「それが独り身、慰めて」

「キモ」

「ヒドイな幼馴染!」

「そんで、何? 好きな人でもいんの」

「それがいるのよ」

「へえ、珍しいじゃん、それで?」


さっきまで調子に乗ってた雄也が突然真顔になる。なんだコイツ、珍しく本当の恋にでも落ちたとでも言うつもりだろうか?

「相談なんだけどさ」

「ああ」

「おまえ……好きな人が、友達の彼女だったら、どうする?」


雄也の言葉に、俺は目を丸くする。

何を言い出すかと思えば、ピュアボーイかよ!