2日続けて男の人と朝を迎えた。

1日目は、ずっと大好きだった人で
2日目は、私のことを好きでいてくれた人。

篤志は紳士で、泣き続ける私に
ただ黙って珈琲を入れてくれた。

ここまで強引に話を進めるなら、
強引に私を奪うことも出来たはずなのに
そうはしなかった。


私とは、「もう会わない」と言ったベンは
言葉通りその後は一切連絡もくれなかった。


1週間経っても、
2週間経っても、連絡は来なくて…

それでも毎日仕事に行けたのは
図々しくも篤志の優しさに触れていたからだと思う。

ボロボロになった私を、ただ黙って毎日寄り添ってくれて

篤志と両想いになれたら
どんなに幸せだろう。

でも、やっぱりベンの温もりが忘れられなくて毎日泣けて来た。

そんなある日。
痺れを切らしたのか篤志が日曜日に
「外へ出かけよう」と言って来た。

仕事以外で外出する気力もやる気もなかったけど、毎日寄り添ってくれて篤志に少しでも恩返しがしたくて渋々オッケーをした。


言われるがままに篤志の車に乗って到着したのは、どこか見覚えのある場所だった。


そうベンの彼女がいる療養所だった。


「なんでここに?」

「色々とあれから調べたんだ。真凛に話したら、きっと嫌がると思ったから言わなかったけど、未来ちゃんや千秋ちゃんとも繋がってここまでやっと辿り着いたってわけ」

未来や千秋のことなんて、
今までひとことも話したことなんてなかったのに、この人は私のためならなんでもやるんだな。

私にも、これだけのパワフルさがあったら
こんなにもボロボロにならなかっただろうに…


毎日毎日他の男のために泣く好きな女を見るのは、どれだけ苦痛だったか。

それでも好きな人の為に、なにかをしてあげたい。と思える篤志は凄い!


これだけ愛を感じると自然に私にもパワーがついたような気がした。

ここまで来たら、
もう立ち上がるしかないよね?


「篤志、色々とありがとう。
…それで、ここに来たってことは…」


「花音さんに話を聞きに行こう。
これまでの前田さんの話を…」


コクリ。と私は頷いた。


「花音」
ベンの携帯を鳴らしていた名前。
やっぱりこの療養所にいた彼女の名前だったんだね。

だとしたら、やっぱりあの指輪も花音さんとの愛の証。


やっぱり真実を全て知った上で
ベンとの関係を終わらせたい!

篤志の想いのおかげで、受け入れる準備はもう出来た。


篤志も、

私がズルズルと引きずっていたら
新しい恋に進めない!ていってたもんね。

支えてくれた篤志の為にも、
自分の為にも、
花音さんや、ベンの為にも

勇気を出さなくちゃ、いけないんだよね?




「わかった、行こう。篤志も付いて来てくれる?」


ふわっと、背中を押された。

「ここからは真凛だけで行くんだよ。僕がいたらお互い話しづらいでしょ?」


(あれ?なんだろう。この感じ。)


篤志の顔は、
もうすでに何かを悟ったかのように見えた。


「きっと、もう1人で真凛は大丈夫だよ。
僕は車で待ってるから。
花音さんと話をしてきた真凛が
どんな決断をしたとしても、僕は待ってるから」


「篤志?」


ニコッと頷く篤志は私に背を向けて車へと歩き出した。




捨てるものはもう、なにもない。
後ずさりしたり、立ち止まったり
もうしたくない。

前へ進まなきゃ。

たとえこれで、ベンを一生失ったとしても
私は篤志の為にも前へ進まなきゃ!