「富士屋さん!」

エレベーターに足を一歩踏み入れた瞬間
後ろから名前を呼ばれ振り返る。


「富士屋さんは、みんなとランチに行かないんですか?」


少し息がきれてる…?


「私は社員食堂でいつもひとりランチなんです。外に行くの面倒で…」


あ…笑った。
つーか、今笑うところ?
もしかして馬鹿にしてたりして。

「じゃあ良かったら一緒に食べませんか?」


「え?だって、さっきお弁当があるって」

「 聞いてたんだ」

また少し意地悪そうに笑った。

「べ、別に聞こうとして聞いたわけじゃ…」

「5階でしたよね?」

否定しようとした言葉にかぶせられてしまい
思わず前みたいに返事をした。

「う、うん。」


長い指が5階のボタンを押すと
ゆっくりと扉が閉まり

まるで、聞き耳をたてたかのように言われた恥ずかしさなのか…
狭いエレベーターに2人きりになったからなのか…

急に鼓動が早くなった。


(この沈黙抜け出した〜〜い!)


無言でいることが、こんなにも居心地が悪いのは久しぶりだった。




ギャルルルルル…



「ぶっ…はっはっっ!」


ベンが吹き出したのは、私のお腹の音が鳴ったからだった。


沈黙も嫌だけど
こんな打開の仕方恥ずかしすぎるょ。


なんでこんな時に
お腹の音が鳴っちゃうわけ?
もーいゃ。


くったくのない笑顔をみせるベン。



恥ずかしすぎるけど…
この笑顔が見れたなら


ま、いっか。



「ウケる」


…?今、敬語じゃなかった。よね?


呆然とする私の頭に長い指が触れる。


「あぁ、ごめん。思わず笑っちゃった。
怒ってたり…?」


優しい手。


「してないみたいだね!良かった」


え?


扉が開き、ベンの甘い香りがふわっと通り過ぎるとエレベーター内の大きな鏡に笑っている自分の姿が映っていた。




わ、わたし笑ってる。

笑ってたから、「怒ってないね」て
言ったのか…。



「何してるの?行かないの?」

振り返ると、廊下側でベンが【開く】ボタンを押しながら待っていた。

「行く…」


あ…また綺麗な笑い方。