職場には相変わらず お兄ちゃんが車で送ってくれてるから 会社の近くだけれど、何人かの人に毎日見られている。

エレベーターに乗るために待っていると、知らない人に聞かれたりする。それは、男女が半々で…

「あの人って彼氏?」

「格好いい人ですよね…」

お兄ちゃんは 何処に居ても目立つのだ。

私はその度に

「はい。昔から格好いい人で、私の自慢の兄なんです。」

と。

だけど、それを言うと 必ず

「はぁ…やっぱり。」

「でも 二人すごくお似合いで ため息が出ちゃうほど 目の保養が出来るよ。」

お似合い?私とお兄ちゃんが?訳がわからない会話に 愛想笑いで凌ぎ そそくさと自分の階でエレベーターを降りる。

お兄ちゃんの事を言われるのはわかるけれど、私は関係ないのにな…と思いながら フロアーに入った。

「おはよ朝倉。今日も同伴出社か?」

「おはよう志木君。同伴って…送ってもらってるだけだし…」

「限りなく溺愛で恐ろしい独占欲の塊だな…朝倉のお兄さんは彼氏の事よく認めたな…」

私は心の中で苦笑い。認める処か翔君には好きな人まで…悲しくなってくる。

「俺 あの兄さんと戦う勇気ないよ。朝倉本当に彼氏出来て良かったな…。」

私って本当の彼氏が出来るのは 不可能な感じがしてきた。はぁ…


定時になり、偽の彼氏の翔君と待ち合わせをしていた場所に向かう。

ケーキに罪はない。しかも好きな人との、僅かな二人きりの時間だ。

時間前だというのに、翔君は既に来ていて 佇む姿も 惚れ惚れするくらい格好いい。

ちょっと離れた所から眺めていたら、見つかってしまい 走ってくる翔君。

「翔君 待たせてごめんね。」

「月夢…お疲れ。いや全然待ってないから。ほら行くぞ。」

と当たり前の様に手を差し出し 手を繋ぐ。えっと…これは?

「///ほら人多いし、月夢ぼんやりしてるからね。」

クスクス笑われて 誤魔化された感じがするけれど

「///え~。ひどい…翔君。」

嬉しくて 言葉と心とが天の邪鬼な私は 唇を尖らして反撃するも 手をぎゅっとされて 顔が熱くなるのを隠すので精一杯なのであった。