「木下さんズルい……」


「あっ。樹野くんだぁ」



熱烈なハグを受けていたわたしの傍らに、いつの間にか戻ってきていた樹野くんが立っている。



しかも、すっごく不満げな顔で……。


「許可降りたの?」


それを無視して尋ねれば、黙って頷くだけ。



……もう。なんだっていうのよ。



「お料理教室がんばってねぇ」


実哉が教室から出て行くわたしたちに手を振った。






「樹野くんも料理出来ないの?」



人手は多いに限る。



簡単なお菓子しか作らないからって、初心者ばっかりを抱えてたんじゃあさすがに不安。



「出来るよ。お菓子は作らないけど」



藁にもすがりたいわたしに一筋の光が……。


それにしても、ムカつくなぁ。


サラッと答えるのが嫌味で嫌味で仕方ない。



でも、



「良かった。なら手伝って……」


「手伝わないよ。聖偉ちゃん?」



笑顔でお願いすれば頷いてくれるだろうって、浮かべた作り笑顔は瞬時に消えた。




むしろ、何倍も目映い笑顔で拒否したコイツに殺意すら芽生える……。