「あれは違っ!! 」

「大声出したら、人来るよ?」



恐らく真っ赤であろうわたしの頬に右手を当て、親指で唇を軽く塞いだ。


それに噛み付いてやろうかと思ったけど、多分このサディストを余計燃えさせるだけだからやめとこ……。



「俺は見られても良いんだけど……どうする?」



鼻先が触れ合う程の距離でわたしに尋ねる顔は、すっごくご満悦。



「嫌に決まってるでしょっ!!」


樹野くんの力が緩んだのを見計らって、力一杯突き飛ばす。


樹野くんがちょっと後ろにさがった隙をついて、すぐさま出口の方へ身を翻した。



ナイスわたしの運動神経……。



「続きはまた明日」


「するかっ!! エロサディスト!!」



やっぱり爽やかな笑顔を浮かべたエロサディスト樹野くん。



すっかり乱れてしまった演劇部予約済みの布の山に再び赤面しながら、わたしは家庭科室へとそそくさと戻っていった。




悔しい……。



また負けた。





「浅野さん、この食器可愛くなぁい?」


って、例の彼女たちが嬉しそうに持ってきた展示用の資料である古伊万里の大皿に、わたしはますます脱力して言葉を失った……。