「なんのつもり……?」



震えそうな声に力を与えて、あくまで気丈に振る舞う。



それでも抑えきれなかった震えが、唇を微かに揺らした。



にっこり笑ってる樹野くんの長い親指がそれをゆっくりなぞる。



「プライドの高い女って……征服意欲が湧いちゃうんだよね」



優しげな微笑みとは裏腹に、黒い黒い発言の連発に背筋が冷や汗で濡れた。



「俺のお手伝い、してくれるよね? 聖偉ちゃん?」



笑顔を絶やさない樹野くんが逆に怖い。



「ヤだ……っん!」


こんなヤツに捕まってたまるか、って必死に抵抗してみるも、


樹野くんはますます腕に力を入れて、わたしの耳を唇で噛んだ。



わたしの耳に未だかつてない感触がじわじわ広がっていく。



確かに自転車を盗ったのは悪い。

認める。



だからって!


抵抗出来ない女の子にこんなことするのは悪くないのっ!?


紛れもないセクハラでしょっ!?



「こんなことしてタダで済むと思ってんのっ!?」


樹野くんが腕の力を抜いたのと同時に、わたしは勢い良く樹野くんから体を離した。



別に悪びれた様子も見せない樹野くんに余計に腹が立った。