『健ちゃん、ありがとう』



火葬場まで来てくれた健ちゃんに声をかけた
身内だけの火葬場に
健ちゃんの居場所なんてなく
灰皿が置かれた外庭の隅にいた



「いや、ちゃんとお別れしたかったから…」



そう言った健ちゃんは
私の顔を見ようとはしなかった



『健ちゃん…、正直に言ってね、』




お姉ちゃんのお腹の子は、誰?




健ちゃんはタバコをふかしながら
火葬場の煙突から出ている煙を眺めている
私の質問がなかったかのように…
聞こえなかったのではない
聞こえないふりをしているんだ


健ちゃんは、知っているんだ
何も言わない健ちゃん
健ちゃんの悪い癖だ

別れてからずいぶん経っているが
数年付き合っていた過去は消せない
嫌ってほど健ちゃんの癖を知っている