キスが嫌とかではない
そんな初々しい時期なんて
とうの昔に通り越している
でも、正直なところ
私はまだ部長のことを
恋人として見ていない
見ようにも
どうしたらいいかわからないのだ
部長が私のことを想ってくれている
それだけで意識している
今はそれを受け入れるだけで
いっぱいいっぱいだ
『楓、ほら』
そう言って差し出された部長の左手
一瞬、戸惑い
部長の顔を見てしまったが
真っ直ぐな優しい眼差しに
吸い込まれるように
差し出された手に
自然と自分の手を重ねた
ぎゅっ、と握られた手は
とても温かく優しい手
この手は安心できるような気がする
行くぞ、と歩きだす

