耳元に部長の顔が近づいてきた。


「ふ~ん、お嬢様なんだ。」

「………。」

「俺はお前を忘れた事は一度もない。」

「………。」

「はな、いや、一花。俺から逃げられると思うなよ。」


耳元から離れていく部長に脳が停止していく。


「一花、あれは…………お嬢様の遊びか?」

「………。」

「騙して捨てる。よくやるな、青山インテリアのお嬢様が。」


岡崎部長の言葉にハッと我に返って、目の前に立つ部長を見上げる。


「違う!別に遊びとかじゃない!バカンスでの出逢いは一時の恋だと普通は思うでしょ?」

「ふ~ん、いつもバカンスでの出逢いは一時の恋なのか。」

「………いつもじゃない。一度だけよ。」

「一度だけが俺ってわけだ。」

「………そう。お互いが『バカンスの恋』だと楽しんだ筈でしょ。」


掴まれていた肩から手が離れたと思ったら、今度は顎を掴まれ、自然と目と目が合う。


「俺がどれだけ傷ついたか知ってるか?突然、恋人のように過ごした相手が消えて。」

「…………。」

「一花、もう逃がさないから。」


岡崎部長の近づいてきた唇が私の唇に触れた。

私と部長の視線は絡まったまま、触れるキスがいつまでも続いた。