「……あれ?」
離れてもちゃんと皆の位置は目で確認していたはずなのに。巾着から財布を取り出しお金を払った一瞬の隙に、友人達の姿が視界から消えていた。
皆が向かった方角は分かっているのでしばらく歩いてみたけれど、人が多くて歩き辛いし歩幅の狭い浴衣姿では急ぐ事も難しく全く追いつけない。中村君の言う穴場を知らないので、このままでは迷子だった。携帯を取り出して見ても誰からも着信はない。私がはぐれた事にもまだ気づいていないのかもしれない。
電話をかけようとしていたら、先の方によく知っている後ろ姿がちらっと見えた。四ヶ月の間毎日こっそり眼で追い続けたのだから、絶対に間違えようがない。
見つけられた事にホッとしながら必死でその背中を追いかける。途中何度か人に肩ぶつかって謝る羽目になったけれど、さっきのを教訓にして一度見つけたその人から私は絶対に眼を離さなかった。
「柳田く……」
二メートル足らずの距離まで近づいて声をかけようとした時。
柳田君の耳がやたら赤い事に気がついた。後ろからだとよく分かる。私の発した声には気づかない、その視線の先には……驚いた様な顔をして彼を見つめるくーこがいる。
「俺が一番見たかったのは槙野の浴衣姿なんだけど」
似合ってるって、可愛いって、褒めてもらえた。そう言ってもらうのが夢で、天にも昇る気持ちだった。
「来年は浴衣着た槙野と二人で花火が見たい」
でも、柳田君が見たかったのは私じゃない。くーこだったんだ。
熱っぽい眼でくーこを見つめる真剣な横顔。それは私が彼を好きになった、あの時と同じ表情だ。そこにどういう意味が込められているかはすぐに分かる。
頭が真っ白になってしまって、くーこが何と答えたのかは耳には入って来なかった。でもはにかんで小さく頷くくーこの顔を見れば、声なんて聞こえなくても結果は明らかだった。
もう今更声はかけられなかった。その場に立ち尽くしていると二人は並んで歩き出す。柳田君に何かを言われて嬉しそうに笑うくーこの耳元でピアスが揺れる。金のチェーンの先で赤い石がゆらゆら。目を背けたいのに、遠ざかって行く二人を見つめたまま動く事が出来ない。


