散り初め花火


「槙野達じゃん。何だよモテない軍団って失礼な」

 一番最初にとうもろこしを食べ終えた柳田君がこちらを向く。

「さっきサッカー部のリア充っぷりを見ちゃったからさー、男だけでつるんでるって落差が悲しくなんのよ」
「何だよお前らも女だけで来てんだからお互い様だろ。ってかいーんだよバスケ部は硬派で売ってんだから」
「弱小だからモテないだけでしょー……」
「うるせー」

 底の厚いサンダルを履いたくーこより、柳田君の方がほぼ頭一個分近く背が低い。うちの学校のバスケ部は残念な事にその競技をしている集団としては小柄な方で、ここにいる柳田君も高橋君も中村君も秋山君も精々平均かそれ以下の身長しかない。そのせいか対外試合でも一度も勝った事がないので、サッカー部の様な人気はない。
 でも私は知っている。四月にうちの学校で練習試合のあった日、負けた後で柳田君が残って延々とシュート練習をしていた事。体育館の中を何周も走っていた事。
 美化委員の仕事で遅くなった私が廊下を歩いていたら、明かりのついた体育館で一人黙々と練習している彼の姿が見えた。普段は明るくてお調子者な柳田君が、負けた悔しさを振り払おうとするかの様に汗を流しながら真剣な顔で練習している姿は、その一瞬で恋に落ちる程格好良かった。誰にも話していない、私の心の宝物だ。

 くーこに言い負かされた柳田君が不意にこちらを向いた。

「宮村、浴衣よく似合ってんな。可愛いじゃん」
「……!」

 偶然でもいいから会いたくて、その一言が聞きたくて、いつもと違う自分を見て欲しくて、準備に時間をかけて頑張った。まさか、こんなに早い時間に出会えて、おまけにいきなり面と向かって言われるとは思わなかった。
 湯気が出るんじゃないかと思うくらい一瞬にして顔が熱くなったけど、花火を前に空が暗くなってきたのは幸いだった。屋台の明かりは必要以上に明るいので、多分顔が赤くても目立たない。