「私も洋一くんも仕事があるよ?」



他の誰かに頼るという概念がない夢里は、そう返した。



それから洋一はゆっくりとコーヒーを飲みながら、知由と会ったときのことを思い出す。



「そうだ、知由には強い味方がいた」


「そうなの?」



夢里は変わらず、顔だけをあげたまま、洋一に聞く。



「ああ。数十人の男を、一瞬で、一人で倒した奴がいる」



洋一が思い出したのは、一弥のことだった。



「すごいね。でも、本当に知由の味方なの?」



夢里は、もしかしたら、味方のふりをした敵かもしれないと思ったのだ。



「間違いないよ。彼に俺の部下にならないかって言ったら、『あたしの仲間を引き抜くな』って怒られたんだ」



その話を聞いて、ようやく夢里が体を起こした。



「知由、かっこいいー! そして洋一くんは何をしてるの」



夢里は頬を膨らませ、洋一を見る。



「いや、徹底的に悪者を演じようと……ごめん」



「いいのいいの。洋一くんの演技がなかったら、知由のかっこいい面を知ること出来なかったわけだし」