「あなたが笑顔じゃないから」

ハッと胸を衝かれた。

「あなたが笑ってないから。あなたが嬉しそうじゃないから…。そんなあなたを見ても私ちっとも嬉しくない。傍にいるのに、こんなに傍にいるのに嬉しくない。…カラダが冷たい。悲しいくらい冷たい。ねぇどうして?」

と見つめるミライの瞳が見る間に潤んだ。

(そこまで想うココロがミライの中にあるのか)

やがてひと滴こぼれ落ちる涙。

(ミライ…)

なおもミライが悲しげに眉を顰めたまま見つめてきた。

「やっぱり広海さんじゃないとダメなの?私なんかじゃ、あなたは笑顔にはならないのかな…」

とせつなげなミライの声。

「ミライッ」

ソファの背とミライの身体の間に手を差し込んで、ギュッとミライを抱き寄せた。僕は『大切な笑顔』が何かを忘れていた。

「そんな事ないよ」

僕が一人で落ち込んでいる時、何度ミライの笑顔に救われた事だろう。

「実験室でもこの部屋でも、ミライがいてくれると心休まるんだ。ミライがいるだけで、僕は笑顔になるんだよ」

ミライの肩をグッと掴んで、語り掛けた。

「うれしい…」

といつにない笑顔で僕の顔を見上げたミライが、僕の背中にたすきを掛けるように腕を廻して抱きついてきた。