ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)

 大学へ着くと、すでに正門の前には学生やらマスコミやらで黒山の人だかりが出来ていた。

「うわっ!凄い人の数だ…。所長、裏門に廻りませんか」

ここを強行突破するのは並大抵の事じゃないですよ。

「いや、ここからでいいんだよ」

と構わず車から降りていく所長。いや待ってくださいよ、と戸惑っているとテレビ局の人が声を掛けてきた。

「大丈夫ですよ。さあ、行きましょう」

とサッサと車を降りてカメラをこっちに向けて構えてきた。照明とマイクも掲げられて、後は僕らが降りるのを待つばかり。

(仕方ないなぁ…)

僕とミライも車から降りた。とたんに沸き起こる歓声、押し寄せる人波、突き出される何本もの腕。思わずグッと身構えた!

「下がりなさいっ」

と突然響く女性の声!パッと声の方を見ると、胴衣を羽織って人波に立ちはだかっている女性がいた。

「あっ」

隣の実験室の平山さんだ!

「それ以上近づくなら、私たち合気道部が容赦しないわよ!」

と、平山さん率いる合気道部の部員たちがこちらに背を向けて人だかりを押し留めていた。なんて頼もしい姿だろう。

(おおー)

と、そこを掻い潜ろうとした一人が、手首を掴まれクルッと返され、その場に痛そうに転がり返った。

「おおーっ…」

どよめきが広がり人の波が静まり返った。