ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)

「でももう私は、あなたの事より、これからの事で頭が一杯」

これからの事?

「プログラムの事、ロボットの事、ロボットと人間の事。私とあなたとの事より、もっと大きな事よ」

と彼女がまじまじと僕を見つめてきた。言いたい事はわかる。僕との恋愛事よりも、もっと大きな全人類的な事が目の前にあると。

「そりゃあ確かに、そっちの方が大きい事かもしれないけど、」

…ちょっと待てよ、それを比較論で言っているとしたら、

「でも、比べてるって事は、君の中にはまだ僕への気持ちがあるって事じゃないのか?」

でなければ比べられない!

「…そうかもね」

と、一瞬見せた艶やかな瞳!

「だったらもう一度、僕を見てくれ!」

とグッと肩を掴んだ手に力を込めると、彼女の顔に寂しげな陰が浮かんだ。

「ムリよ」

「どうして!」

肩を揺らして聞き返すと、じっと見つめ返された。

「先に私から目を逸らしたのは、そっちじゃない」

え?

「私に嘘をついている事を、最後まで私に話してくれなかった。私より、研究の方を選んだのはあなたの方じゃない」

と唇を噛み締めて、じっと刺すように見つめてきた。

(…そうか)

なんて馬鹿だったんだ僕は。

「先生が悪いんだから。せめて先生から、全部正直に話して欲しかったわよ」

ああ、なんて事をしてしまったんだ僕は。