ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)

「従来のロボットの概念を越えた、人間そっくりの完璧なヒューマノイド。我々はその実現を目指し日夜努力を重ね、そしてついに完成の運びとなりました。人間そっくりに動き、人間そっくりに話し、人間そっくりにココロで感じ、微笑み、涙を流し、そして人を愛する。そんな夢の様なココロをミライは手に入れたのです!」

と所長が、パッとこっちを振り向いて力強い眼差しで見つめてきた。

「そしてそれは、ミライの横にいる『彼』の存在なくして有り得なかったのです!」

来た!一斉にフラッシュがこちらを向いて浴びせ掛けられた!

(うわっ…)

面食らいながら慌てて立ち上がる。フラッシュのキラメキの中から数え切れない程の数のレンズが覗いてる。迫り来る緊張感に押し潰されてしまいそうだ。

「彼は本業である、人間行動学教室の助手を勤めながら、ミライのパートナーとして我々に参加してくれました。ミライが感情を感じるココロを持ち得たのは、彼の献身的な協力なくしてあり得ませんでした。ミライにとって、彼はまさに欠かせない存在だったのです」

と所長の説明を受けて、取材陣の中から手が挙がった。と所長から指差された記者が立ち上がって、真っ直ぐ僕を見てきた。

「先生、ミライというロボットはあなたにとって、また人間全体にとって、どういう存在だとお考えですか?」

いきなり核心を突く質問が来た。所長から差し出されたマイクを受け取って、考えながらギュッと力強く握り締めた。

「僕はミライをただのロボットだとは思っていません」

さっきの所長のセリフを思い出すと言葉が自然に湧いてきた。キリッと前を見据え直して、さらに続ける。

「ロボットだとか人間だとか、それだけの存在ではないんです。ミライは僕にとって、そして僕らみんなにとって、これからの大事な『みらい』なんです!」

ひと際眩しく焚かれるフラッシュの光の中で、横に立つミライを見つめた。いつになく輝く笑顔で見つめてくるミライ。自然と見つめ合う時間が生まれた。