ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)

「その理由はね、」

と、所長が控え室の奥に居た広海君に目を遣った。

「広海君、ミーちゃんをこっちへいいかな」

えっ、ミーちゃん?

「あ、は~い所長」

と、広海君がミーちゃんを抱えてやって来て、所長の胸に手渡した。

「このミーちゃんに、理由があるんだよ」

ハイッ?

(どういう事ですか?)

この期に及んでナニを言い出すんですか?

「よ~しよし」

と、所長が表情を緩めて胸に抱えたミーちゃんを撫でながら机の上に仰向けにして、口にメタノールの哺乳瓶を咥えさせて静かにさせると、フッと顔を上げて僕を見た。

「いいかい、よーく聞いて欲しいんだ」

と、所長が真面目顔になった。

「今じゃ旧型のこの子だけど、世の中に初めてこの子が、ペット型ロボットの第一号機としてこの子が現れた時は、そりゃあ衝撃的だったんだ。今までのロボットとは全然違う。何しろ声を聞いて動いて喋るんだからね。驚きの反応が世界中に広がったんだよ」

と、所長がミーちゃんのお腹のカバーを手際よく捲った。

「シリアルナンバーAA000001。この子は、世の中に出た正真正銘の第一号機さ」

「えっ!そうだったんですか」

そんな貴重な物だったんですか。

「この子を持ってたボクは、周りから興味の目で見られたよ」

と思い出すように宙を見上げて言葉を続ける所長。