ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)

「はい。ミライは管理者と好きになる人がイコールじゃありません。ミライが好きになるのは、一番長く傍にいてくれる人なんです」

「一番長く傍に?」

聞き返すと、本田君が頷いて返してきた。

「そうです。初めからミライは、一目惚れするようには作っていません。今のプログラムでもそれは引き継いでますよ。ミライは、初期化されて何もない状態から時間が経つにつれて、一番長く記憶されている人に好意を寄せるようにしてあるんです。人間だってそうでしょ?ずっと一緒にいる人を好きになる。好きだから一番長く傍にいる。それと同じ理屈、って言ったらいいですかね」

と遠く一点を見つめる本田君。

「なるほど」

頷くと、本田君が作業台に向き直った。

「ついでに説明っぽく付け加えるとですね、ある程度時間が経つと『好きな人』以外の記憶は基本的な情報を除いて圧縮されて、書庫フォルダに閉じ込められるんです。さらに一定の期間なんのアクセスもないと、そのデータは消去されてしまいます。つまり好きな人以外との記憶を、ミライは忘れてしまうんですよ」

とノートパソコンのキーを叩く本田君。

「忘れるのか」

忘れるってのは意外な感じだ。

「顔は覚えてるけど『誰でしたっけ?』って場面に出くわした事はあるでしょう?」

「ああ、そういえば」

「それと同じになるワケです。幾ら何でも、無尽蔵に覚えていくなんて事はムリですからね」

なるほど、記憶できる容量には限界がある。それを上手くこなしているワケか。

「よく出来てるねぇ…」

思わず頷いて返した。

「ハハハ、今となってはそう褒めてくれるのは先生だけですよ」

と本田君が、マウス片手に微笑んでいた。