ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)

「それじゃあ、説明しましょうか」

と微笑んで見上げる本田君の、隣の椅子に腰掛けて身構えた。

「ちょっと待ってください…」

と、本田君が散らばっていた書類を集めてトントンと揃えて脇に置いてから、こっちを振り向いた。

「まず原因の一つは、」

と、本田君が指を立てて身を乗り出してきた。

「ロイに組み込んだ、ココロとカラダのシステムに理由があったんですよ」

「ココロとカラダのシステムに?」

どういう事だ?と、本田君が一呼吸置いて説明し始めた。

「ロイは感情をよりストレートに表せるように、ソフトを介さずにハードで直接電圧をコントロールするようにしたんです。管理者に触られる、抱きしめられる、その事で直接電圧が上がるように。そしてその逆の時は電圧が下がるように」

と手のひらを上げ下げしてみせる本田君。

「じゃあ、抱きしめてくれないと電圧が下がるのか」

聞くと本田君が大きく頷いて返してきた。

「そうです。それが裏目に出ました。クワンはもう動かない。抱きしめてくれない。そこにロイのカラダが深い悲しみを感じて、自分で自分を動けない程低い電圧にしてしまったんです」

と背凭れに体を預けた本田君が、宙を見上げながら続けた。

「あともう一つ、最初からある基本プログラムも悪い方へ働いてしまったみたいなんです。管理者の真似をするようにってプログラムが…。管理者が笑ったら笑うように、悲しんだら悲しむように、眠ったら眠るように、…」

と、本田君が俯いて一瞬、間が出来た。

「死んだら、死ぬように?」

ツッ込むと、本田君が一度言葉を詰まらせた。