「ハスミンってさ、宮永と付き合ってんの」

 礼だけ言って終わらそうとしていた私の耳に届いた、何の前触れもない質問とケイの名前に心臓が急に慌て始める。

 ついさっき起こった、私にとっては一大事と言える彼とのキスが頭の中に浮かんできたと同時に、最後に向けられた突き放すような言葉が何度も繰り返される。

「……いきなり……何で?」

 落ち着きを取り繕って声を潜める私に、須加さんはそのアーティスティックな顔を鏡から私に向けた。

「いや、すごい噂になってるから気んなって」

 と、言う割にはつまらなさそうな表情で、大きな欠伸まで。そんな須加さんを見た笹岡先生のわざとらしい咳払いがこっちに飛んでくる。

「付き合ってないよ。噂話なんて勝手に大きくなるものだから下手に信じない方がいいと思うけど」

 私は教科書を並べて前に向き直る。

「ハスミンって超クールだね」

 どうやら私の動揺しきった内心が表には出ていないようだ。

 須賀さんはすでに私に対する興味がなくなってしまったのか、芸術的なその横顔をこっそり眺めても、こっちに目を向けることはなかった。