透明の箱に囚われた一匹の犬。モフモフで大きな体、その顔は純朴で可愛らしく、小さな耳を垂れさせて、薄茶色の目がこちらを見つめている。
正直に言おう。一目惚れだと。
もう何度かリョウスケに千円札を両替させに使い走り、一瞬で消えていく硬貨。透明の箱に張り付いて、ボタンに置いた手は汗が滲んでいる。
「もう諦めなよ。俺が別のぬいぐるみ買ってあげる」
プリクラ機から出て、リョウスケ達のいるクレーンゲームが並ぶ所まで来た私は、いつもそうするようにお菓子目当てに物色していた。
そんな私の目にとまったモフモフ。一瞬で心を奪われた。
「あと……あとちょっとだから……っ!」
愉快な音楽とともにモフモフめがけて降りるアーム。持ち上がる胴体は、しかし、無情にもアームから離されて元居た場所に戻されてしまう。
「宮永の言う通り、諦めれば? こういうのってそもそも簡単に取らせないように仕組まれてるんだからさ」
小憎たらしい顔で小憎たらしく言った堀江君に言い返す言葉が見つからなくて、奥歯を噛みしめる。
私だって分かってるんだ。でも仕方ないじゃないか。どうしても欲しいんだから。
「しゃーねーな、俺が取ってやるよ! 任せとけ!」
いじけた私に両替から戻ってきたリョウスケが言ってくれる。滲み出るクレーンゲーム玄人感に私は期待に胸を踊らせた。


