笑顔が凍りついて、私の額を冷や汗が流れる。
もちろん、今の言葉は私のものではない。そう、この柔らかく甘い響きさえあるのに毒々しい言葉を躊躇なく告げたのは……無邪気な笑顔を私に向けるハルちゃんだ。
当然、河西さんを取り囲んでいた女子達の金切り声が容赦なく飛んでくる。しかし……
「俺のハルを虐めないでくれる?」
それまでおとなしく待っていた王子が、綺麗な微笑みを顔に貼り付けながらも冷ややかで怒気を含ませた声で言い、ハルちゃんを後ろから抱き締めていた。
まさかの展開にクラス中が騒然とするけれど、当の本人は愛しい彼女が頬を赤く染める様を見下ろして楽しんでいる。
真横でそれを見せつけられた私は、扉付近に居たスガシノの側にそっと移動した。
「誰が犯人なのか証拠もないし、証言もどうやら確かなものではないらしい。けど、こうやって明らかな敵意を向ける数人が圧倒的に怪しいと思うのは俺だけかな? ねぇ、ハル」
「あ、あの……ちょっと離れて……っ」
ハルちゃんの頭からは湯気が沸いている。悪い顔して笑う堀江君は、いつもの爽やかさとは違うが色っぽさがあり、女子の黄色い声がそこかしらで聞こえてくる。
河西さんの表情は憤怒の色に染まり、周りの友人も自分達の立場が危ぶまれて不満げな顔でこちらを睨む。
もはや、収拾がつかなくなっていく事態に、私はただ呆然と立ち尽くすしかない。そこに現れたのは担任だった。


