「それじゃあ、河西さんは何もしなかったんだね?」
相原さんを庇うつもりはない。このまま河西さんに言い逃れさせるのが癪なだけだ。
「見てたのに……それが、ただの悪意であると気付きながら“何も”しなかった、と」
私が笑いながら問いかけたら、河西さんが顔を俯ける。友人がそんな彼女を守るように囲む。白々しい演技と茶番に溜め息が溢れた。
「…………確かに、何もしてない。だって、何も出来なかったの。相原さんに歯向かえば、今度は私が陰口の標的になるかもしれないでしょ」
目を潤ませて顔をあげる河西さんの姿を見て、クラスの男子数人が私に「河西さんだけを責めるのは止せよ!」とか「というか、田口さんの為に勇気を出して犯人を教えてくれたのに」という戯れ言を口にする。
こいつらは私が被害者だということを忘れているのか。馬鹿なのか。
何が勇気を出して、だ。こんな下手くそな演技で簡単に篭絡されよって。
「へぇ? 私の為に人の少ない早い時間に来て、相原さんが二人分の席を一人で運ぶのを律儀に見守って、教室で楽しく会話しながら、こうなる流れを待って証言してくれたんだ。ありがとうって言うべき?」
だいたい、こんな雑な嘘も見抜けないで口を挟まないでもらいたい。
「何が、言いたいの?」
表情がなくなった彼女が私を見つめる。私は首を傾げて微笑む。
「すぐバレるような嘘つくなんて、さすが見てくれだけを磨く頭空っぽな子が考えることは私達と違うなぁ……と思って。ね?」


