そりゃ、そうだ。彼女はやってないんだろうから。
確かに、屈んでいた私に教科書を落としてきたような奴だったけれど、反撃した私に怖じ気づくくらいだ。
目をつけられた私や、河西さんのような人間がいなければ、やる側になんてなってないと思うし、あれから私にちょっかいを出すこともなかった。
言うなれば、彼女はとかげの尻尾なのだ。
「私も、見た」
「……私も。なんか係の仕事とか、そんな感じだと思ってたけど……」
容赦も、何もなく、ただ自分の保身を第一に考える彼女等に切り捨てられてしまう。
コソコソ、と、しかし、皆に聞かせるように河西さんの話に合わせていく友人達。その友人達は相原さんの友人でもあったけれど、河西さんの側で身を寄せ、冷たい一瞥を投げる。
今、この瞬間、彼女は皆の壁の外側に放り出された。
ぽんっ、と。
私は壁の外の、そのまた壁の外からそれを見ている。当事者であったのに、この場はもう私なんか要らない。
綺麗な顔で器用に涙を流す河西さんと、声を詰まらせながら必死な形相で無実を訴える相原さんと、私とハルちゃんに嫌がらせをした理由を好き勝手に挙げて相原さんを糾弾しようとする幾人かのクラスメイト。
もはや、カオスである。
冷静に考えれば女子一人の力で二人分の机を移動させるのは無謀だ。何より、手間がかかりすぎる。そんな事をするなら、まだ机に落書きだとか、菊の花を置いた方が楽に嫌がらせらしいことが出来るはず。


