王子、もとい堀江君の登場は意外だったのか、あちこちから訝しげな声が囁かれる。一部を除いて。
河西さんの顔色が遠目にも変化したのが分かった。
ここで堀江君とハルちゃんの二人が付き合っていることを公にすれば、彼女にとっては分が悪いだろう。
厚かましくも堀江君の彼女面をしていた河西さんが実は彼女ではなく、その本命であるハルちゃんが嫌がらせを受けたとなれば、矛先は河西さんに向く。
そうなれば、私達が持ち上げずとも周りが勝手に正義を掲げて彼女を詰る。
堀江君とハルちゃんは目の上のたんこぶが無くなり、万々歳という訳だ。
よし、ここは私の名演技で河西さんに一泡吹かせてやろう。意気揚々と息を吸い込み、あとは溜め込んでいた鬱憤を晴らすだけ……だったはずなのに。
「もう黙ってられない! 私、見ちゃったの!!」
悲痛な叫び声は一瞬にして教室を静まらせた。席を立ち、大きな目に涙を浮かべた彼女に全員が注目する。
「……相原さんが、二人の席をどこかに運んでいくのを」
震える体を縮こませて、潤んだ瞳が生贄を見つめる。河西さんに集まっていた目も同じ場所に移動する。
名指しされた相原さんは寝耳に水といった感じで、瞠目して狼狽えるばかり。反論の言葉さえまともに喋れないような状態だ。


