「二人とも大丈夫か?」
自分の役目は終わったと、側に来たリョウスケが私とハルちゃんを交互に見遣って言った。
「多分、ケイもそろそろ登校してくる頃だと思うから、呼びに行こうか?」
小声で私に尋ねた彼に、軽く頭を振る。
「大丈夫、ありがとう。それより……」
ハルちゃんに目を向けると、彼女も顔を上げていて目が合った。その表情にさっきまでの動揺は見てとれない。
「ハルちゃんはこのまま黙ってやり過ごしたい? それとも、すまし顔を醜い憤怒の面にさせ、あまつさえ、その実態までも暴露させたい?」
ちょっと前に、河西さん達がハルちゃんにわざとぶつかって謝らせた事を思い出す。その時、彼女が選んだのは前者だった。自分が悪かったのだと。
問いかけた私に、彼女は穏やかに笑う。
「せっかく、人が親切丁寧に脅して……教えてあげたのに、休みの間に忘れちゃったみたいだね。学習しない頭。本当、嫌になっちゃう」
この世で一番怖い笑顔だと思った。
後ろにいたリョウスケも、本能で感じ取ったのだろう。「あれ、何か背筋に悪寒が……?」と困惑している。
そこへ、人垣をくぐり抜けて現れた須賀さんと篠田さん。さらに、もう一人が険しい顔をしてやって来た。
「風の便りで、クラスがとんでもなく荒れてるって聞いて来たから……」
須賀さんが教室を見渡して口を開く。
「とりあえず王子連れてきたよー!」
ハイテンションな篠田さんは、背後に不吉なオーラを纏っている彼を物ともせずに「めっちゃ怒ってるけどねー」とケタケタ笑っている。


