心の内で面白くもないことを想像している私に気付かない女子軍団の壁の向こうで、心配そうにこちらを見ていたハルちゃんがいた。

 ハルちゃんは目立つタイプではないけど、女の子らしくて可愛くて、祖母の家で飼っている犬に似ている。

 とても優しい顔の、誰もを癒すナナちゃんと。

「──……ケイ」

 ナナちゃんのことを思い浮かべていた私の耳に聞こえた声は空耳……ではないらしく、背後に気配を感じて振り返る。

「あ、昨日の……」

 昨日の告白してきた人。

 確かに同じ人だった。

 けど、起きたまま来たような寝癖と顔が昨日よりも近い距離にあって、私は口ごもった。

 異様な空気に包まれる教室で彼は寝癖を気にせず、そして恐らくクラス中の目(そうじゃなくても女子軍団全員)が私たちに向けられていることも気にせず、一度あくびをしてから私を見下ろす。

「名前」

 彼は再び大きなあくびをした。

「は?」

 私は少しだけ苛立ちはじめていた。普段こんなに短気なことはないのに、何だか彼の前だと私は余裕がなくなってしまうようだ。

「俺の名前……ケイ。名前知ったから、俺と付き合ってくれる?」