「私、ケイの彼女でいても良いのかな……」

 私は卑怯者だ。

「俺はハスミの彼氏でいたい。それに、離れるつもりは毛頭ないからね」

 彼の優しさを利用する。

「ハスミ、何も心配はいらないよ。言われた言葉を鵜呑みするほど馬鹿じゃないから大丈夫。安心して」

 私から離れていかないように。

「ケイ……抱き締めて……お願い」

 私の伸ばした手を掴んで、彼が自分の胸の中に引き入れてくれる。私は彼の背中に手を回して、胸に耳を押し当てる。

 少し早い鼓動の音に目を閉じた。

 ねぇ、私だけにこの音を聞かせてくれる?

 私が綺麗じゃなくても。

「俺からもお願いがあるんだけど、良い?」

 目を開けて、顔だけを上げた。見上げた彼はいつもの優しい顔をしていなかった。

「キスしたい」

 私を見つめる目が、獲物を定める野性的な目をしていた。

「もう、すぐそこに家があるのに?」

 手を離して距離をとろうとしたが、ケイがすかさず腰に手をやって簡単に引き戻される。

「誰か来る前に、やってしまった方が良い。見られて困るのはハスミだろう?」

「そんな悪魔みたいな顔して言わないでよ」

 意地の悪い笑顔を浮かべ、熱っぽい眼差しを向ける彼から目をそらす。その瞬間、彼の唇が頬に、電光石火の如く当てられていた。