こんなダメな彼女じゃ、彼の隣に居られなくなる。
こんなに優しくされたら、もっとダメになるのに。
……でも、今日は疲れた。
私はケイの腕にしがみつくようにして、情けない顔を隠した。
知られたくなかった。イツキから言われた言葉もだけど、私に向けられる嘲笑と嫌悪、そして、それをなす術もなく聞き入れていた私の姿を。
イツキは教室に君臨する王様で、私はその最下層のいじめられっこで。奴に反抗したら即罰則。忠実な家来に慈悲はない。イツキの言う命令こそ正義で、唯一存在した正解だったから。
あの瞬間、私は中学三年生のハスミに戻っていた。私が今までで一番嫌いだった私に。
車掌がアナウンスで次の停車駅を告げる。
それはケイの家の最寄駅で、つまり彼はここで降りなければならない。
本当はもっと一緒にいたい。
「ケイ、今日はごめん。でも楽しかったよ」
話したいことも沢山ある。
「またバイトが休みの時遊ぼう。準備が整ったら家にも遊びに来てね」
けれど、それ以上に怖くなった。私の嫌いな私を、彼にも嫌われてしまうことが。
腕から手を放す。ちょうどよく前の席に座っていた人達が立ち上がって、扉の方へ移動していった。私はそこに座って彼を見送ろうとした。


