彼はスクリーンではなく私を見つめていて、目が合うと「眠たいなら、俺の肩貸すよ?」また私に顔を寄せて優しく言う。

 全身が火照り、変な汗が流れ落ちた。

「……大丈夫っす」

 本心ではとても良い提案だと思ったけど、人前で甘えられる可愛げは私には皆無なので遠慮させてもらう。

 前に目を向け直した私の手に彼の手が触れた。そのままケイは指を絡めさせる。

「このヒロインがもしハスミだったら、俺はあんな風に泣かせたりしないな」

 小声で呟いたケイの横顔を見上げると、口角だけを上げたシニカルな表情だった。

 ストーリーも中盤に入り、そろそろ佳境なのだろうか。ヒロインが何故か雨ざらしの中、泣き暮れている。都合よく、周りには誰もいない。

「でも、前に私のこと泣かしたくなるって言ってた」

 ヒロインに駆け寄る足が出てくる。振り返った先には彼女が求める人……ではなくて、所謂当て馬役であろう人物。彼は悲しみに満ちた彼女の表情を物憂げに見つめ、傘を差し出した。

「そうだけど……違うんだよ」 

 繋いだ手を彼の方へと引かれ、体も引き寄せられる。二人の間に肘置きがなければ、一つの椅子に二人で座ることになっていたかもしれない。

「俺じゃない男に隙入れさせるようなことはしないし、そもそも一人で泣かせたりしない。俺の腕の中で俺にすがりながら泣くハスミを愛でたいんだ」

 状況の違いなだけで、泣かせるのなら同じじゃないか。呆れる私の頭にケイの頭が乗っかかる。その彼の重さに負けて肩に寄りかかった。眠気に負けるのに時間はかからなかった。